※12話以降(7話参照)
※死柄木視点で短短短(想)文



平和の象徴を消去する作戦。
その準備を遂行するために必要だった書類。
システムの綻びを見つけ出し、報道陣を誘発、速やかに滞りなく済むはずだったデータの入手。けれど、途中で邪魔が入ったと黒霧が重々しく語った。



「狼……?」
「ええ、黒曜の毛並みを携えた狼です」



黒霧の袖口が鋭い牙によって引き裂かれた跡が全てを物語っていた。
一般的な大きさの狼の事を指していないことは明白だったが、人狼という特殊な個性を持つ超人がこの世にどれくらい希少価値が高いのかなど。子供の浅知恵でも容易に考えられる。
だが、死柄木は皆まで言わず苦々しく口を結び首筋を爪でがりがりと掻いた。



「で、肝心の情報は入手できませんでした、とか言わないよな」
「ええ。間一髪で入手は出来ましたが、痕跡は残ってしまいました」



申し訳ございません。と黒霧は頭を下げた。珍しいほど素直に謝罪を述べられ調子が狂う。がりがりと掻いた手を止め、今度は頭皮をただの痒さで掻いた。



「ここを引き払うか……別に本拠地って訳でもないからいいけどさ」



薄暗いパソコンしか存在しない廃墟の一室。
データを全てプリントアウトしたため、この部屋の用途は使い果たした。
USBメモリーを差込、パスワードを入力する。画面に表示された、YESとNOのテキストボタンを躊躇いもなくYESを押して、メモリーからウイルスデータを流し込む。これでこのパソコンから使用履歴や形跡を探ろうとした瞬間、勝手にデータは削除されるという寸法だ。



「ほんとっ、役に立つよ」



ムカツクほどに……。
思い出したくも無いことも思い出す。これも全て脳裏にちらちらと見え隠れするあいつの所為だ。あいつの姿が容易に浮かんでは消えていく。いつも余裕な笑みを浮かべて俺の名を呼んでは、馬鹿だな。と呟くあいつの声まで脳裏に焼きついて離れない。しみついてしまった習慣のように、俺は虚無に手を伸ばす。



「死柄木弔、実行にあたり教師陣に目を通しておいてください」
「わかってるよ、うるさいな」



一々指図するなよ。そこまで言っても黒霧は動かなかった。
なんだ、こいつのこの行動には何か訴えかけられている気がする。渡された資料に目を通すが、そこには教師の名ではなく実行するに当り、不幸にも抜擢されてしまったヒーロー希望の生徒が在席しているとあるクラスの名簿だった。



「おい……からかってるのか」
「あなたなら判別できるでしょう」
「……黒霧。お前にあの時の話をするんじゃなかった」



何週間か前にたまたま雄英の真新しい制服を着た生徒を見かけた。
未来ある若者。ヒーローへの羨望と期待、そして希望を胸に抱いた輝かしくも恨めしい存在である……子供たち。
その中に、白髪の女がいた。そいつも真新しい制服に身を包んではいたが、当てはまらないとも感じた。
何故、その少女に対して嫌悪を宿したのか。何故あの少女の顔を見てあいつを思い出したのか。



―――あの瞳だ



碧眼の瞳が似ていた。寒々しく、青々しい、気高い象徴。あの瞳が、色が、光が似ていた。



「……居た」



名簿の中に写真までついている。その特徴ある白髪の女はこちらを見透かしたようなその碧眼の双方でこちらを見ていた。



「やはり別人ですか」
「……似てる」



気が狂いそうなほど似ていた。写真に指を這わせてあの日一瞬しか見えなかった少女の顔がフラッシュバックする。それは簡単に浮上した。普段から同性だと勘違いしてしまうほど、仕草が本来の性別からかけ離れている所為で俺はすっかり抜け落ちていた。そうだ、あいつは……そこまで来れば合点はいった。何故あのとき彷彿した感情があったのか、存在していたのか。俺が無視できないほどに湧き上がる衝動に理由が、答えが結びつく。
ああそうか……似ているのか。ああ、そうだそうだ、似ている……!あいつに似ているッ!あいつはこんなところに居たのか……!!!



「死柄木弔……?!」



黒霧が一歩後退する音が聞こえた。
羨望と期待、それから……妬ましい程の憎悪の表情が液晶画面のバックライトに照らされた。



「死刑執行だ……!」



生徒名簿を粉々にしながら、俺は歓喜に震えていた。
携帯端末機が虚しく鳴り響く。何てタイミングなんだと意気揚々と応えた。



「ああ、先生……試作のアレ貸してよ。あの人にも伝えて置いてください――準備は出来てるかって」



愉しいゲームの開幕だ………!



これ以上書いたらネタバレる……予感察知!エネミーですぜ。



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