彼女は僕の……聖域。


不規則な生活を続けていた。
英雄とは過酷な仕事だ。昼夜問わず問題が起これば事件が発覚すれば早期解決のために現場へ急行する。それは制約として契約的に行うものではない、全ては英雄たる犠牲から成り立つ行動に準ずるのだと、僕は考える。けどそんな美徳だけを詰め合わせた誓約書じみた言葉の羅列は信憑性に欠けるから、嫌いだ。
だが、彼女が英雄たるために力を行使するというのなら、従うまでだ。
僕は、彼女のために存在している。彼女が許してくれるのであればいつだってこの身は彼女のためにあるのだと、公言してしまいたい。

けれど、流石にそれは敵(ヴィラン)っぽいか―――。



「 雄英にスカウトされた? 」
『 ああ。生徒ととして潜入し治安維持を保つんだと 』



気だるげに彼女は発する。それがどんな意味を持っているのか、彼女は馬鹿ではないから解っているはずだ。僕は震える手を抑えながらカップを口元で傾ける。



「 いいの? 」
『 何がだ 』
「 …もしかして何か引き換えになるモノでも見つけたのかな? 」
『 流石に鋭いな。ああ…少し、興味が惹かれた 』



ーーーだから、いいんだ。



彼女はそう言って普段はあまり口にしない珈琲カップを飲み干した。
雄英に専任として直属雇用するということは、彼女にとって羽を毟られるのと同義語。束縛、監視……そんな言葉はまだ生易しいのだと僕は容易に想像がつく。けれど、彼女が決めたことだ。だから僕は、この言葉を彼女に告げる。



「 僕は君についていくだけだ 」



喩えそこが地獄であろうが。牢獄であろうが。僕にとってそんな事は些末だ。関係がない。彼女の隣りこそが僕の……還る場所なのだから。



『融』



傍らに置かれた珈琲カップ。僕が使用しているものだ。視線をそろりと上げれば結わいていない彼女の美しい白髪が僕の頬にかかる。
ずれる眼鏡をそのままに、どうやら僕は徹夜をした挙句に眠りこけてしまったようだ。時計を確認すると、もう朝食の準備をしないといけない時刻に差し迫っていた。



「ごめんね。禄ちゃん!直ぐに仕度するから」
『いいよ。今日は午前休を貰った』



雄英の制服を着ているのに、午前休なんて。と思ったが、そうか。今日はA組の生徒が人命救助訓練をする日だったと悟った。
椅子から半立ちしていたが、再び椅子に座りなおし、書き掛けのプログラムに再び手を伸ばし打ち始める。彼女からすると僕のやっていることは魔法のようだと言っていた。



「もうすぐ終わるよ。そしたらこれを雄英のシステムに導入してテストすればいいだけ」
『悪いな。お前も大学があるだろうに』
「いいよ。出席しなくてもレポートさえ出せば単位くれるから」



そう言うと『楽そうだな』と彼女は言った。大学だからね、と僕は笑った。
こんな風に穏やかな日を過ごすのは久しぶりだ。まるで嵐の前の静けさにも似ている。この日に何かが起こるなんてそんな預言者にはなれない。けれど、彼女はきっと予感している。だから、彼女はこんな時間に起きていたんだと、僕は三流探偵のように推察した。



「さて、これで終わり。今からご飯作るよ」
『あいよ』
「そういえばフェンリルは?」
『リビングで倒れてる』
「何故?!!」
『空腹に負けた』



しれっと軽やかに簡潔させてしまう彼女を余所に慌ててリビングへ向えば台所でフェンリルが屍のように動かないまま倒れていた。



「いつか殺られると察していたさ!」



ぷんすか、と怒っているのだろうけどそんな子犬の姿で尻尾を左右に振りながらでは説得力がない。彼女の肩が定位置のフェンリルはご飯を食べたら元気になった。



『重い…お前少しは犬らしく歩け』



耳をぴんぴん引っ張る主人に対してただ甘えてじゃれている子犬の戯れにしか見えない。動画撮っておこう。
今日は全員で外出という、珍しい日になった。しかも向う場所まで同じだ。



『……融。それはコスプレか?』
「それを禄ちゃんが言うとは思わなかったよ」



昔袖を通していた雄英の制服を引っ張り出して着用していた。生徒の服装をしていれば周囲に怪しまれることはないだろう。あくまであの校長は生徒に疑心を招く行為は避けたいそうだ。だが、それって将来英雄となるに当っての対応としては少し議論はしたいところではあるけど。僕にとってそんなことは本当にどうでもいい。寧ろ誰が英雄になろうが、なるらずに敵に堕ちようがどちらでも構わないのが本音だ。



「まさかこうやって制服を着て、禄ちゃんと歩けるなんて思わなかった」
『……一緒に歩いているだろうが』
「そうじゃなくて…もっとこう、視覚的な問題かな」
『視覚的……ね』
「だってほら、禄ちゃん。学校通ってないでしょ?」
『……高校卒業認定資格なら持ってるけど』
「いやいや。別に学歴を疑っている訳じゃなくて!」



固執しているのは僕だけなのは理解している。女の子なら誰でも想像する、憧憬を催す人物と同じ学校に登校する。制服とはそれだけ魅力がつまった装備品。僕が創造する作品とは訳が違う。あるだけで、着るだけで、効果がなくても人生において効果があるのだ。と、僕は推論をたてるが。きっと彼女は理解出来ないだろう。



―――ああ、もう少し早かったら桜の舞う道を歩けたのかな



桜の散ってしまった木々を見上げながら僕と彼女は過ぎ去った記憶と共にこの門をくぐる。生徒たちは今授業を受けている最中だ。こんな時間から登校するなんて重役出勤にも程がある。
職員室に赴き、システム管理室の鍵を受け取ると彼女はフェンリルと共に背を向ける。



『ここで』
「うん……禄ちゃん」



僕が結った彼女の美しい白髪が揺れる。凛とした背筋は惚れ惚れするほど惹かれてしまう。ああ、眩しい……僕の憧憬。



「無茶しないでね」



でもどうして僕は、こんな言葉しか彼女にかけることが出来ないのだろう。
そんなものいくら考えたって答えはとっくに握っている。僕と同じ碧眼の双方が青々しく僕を映す。君と同じなのに、君と違う。君のようにはなれない、僕の座標。



『誰に向って言ってんだよ』



―――やっぱりかっこいいんだよね



口元を引いて優雅に微笑む彼女。フェンリルと共に手を上げて『じゃあ』と颯爽と廊下を歩いて行ってしまう。僕は君の背中ばかり追いかけている気がするよ。それは自分で臨んだことだから、別に構いやしないのだ。

システム管理室の施錠を解錠すると中には相澤さんが居た。現在の彼女の監視役。それだけでどうしてだろう、酷く羨望してしまう。ああ、でもどちらかというと嫌悪の方が強いかな?



「蕾。悪いな大学をサボらせて」
「いいえ。禄ちゃんの頼みなので」
「お前は昔からあいつの尻ばかり追いかけてるんだな」



他人に理解できるとは思えない。
僕の複雑に捻じ曲がった感情の矛先など。だから何を言われても深くは受け止めない。他人の言葉に一々反応もしない。それは僕にとって他愛も無い石ころ同然だから。
モニターの前へ行き、彼女に言われたとおりシステム修繕と強化プログラムのダウンロード作業に取り掛かった。



「相澤さん」
「なんだ?」



でもさ、やっぱりさ、僕は……弱虫なんだよ。



「禄ちゃんのこと見ていて上げてください」



◆◆◆



本日のヒーロー基礎学は【人命救助訓練】
場所が遠いためバスでの移動を余儀なくされた。生徒たちが着替え終えちらほら集まってきていることを確認していると、ドンっと背中を叩かれた相澤。
振り返るとそこには、既にコスチュームに着替え午前を全てすっぽかした禄が悪戯な笑みを浮かべていた。



「お前今まで何処に居た」
『校長と融のギャラについて討論してました』
「またか」



彼女のコスチュームはシンプルで無駄がない。そして色味も無かったはずだが、今日だけは首元に赤いマフラーをしていた。その色味が何を語っているのか、相澤は眉根を寄せる。けれど、そんな勘繰る眼を余所に禄は相澤に手渡した。



『小型無線機です。耳に装着しておいてください』
「……何か仕掛けてくる核心でもあるのか?」
『別にそういう訳じゃないですが、まあ備えあれば憂いなしって奴ですよ』



何処までも読ませない心情に、相澤は無言で受け取り耳にはめた。
マフラーを口元まで上げる仕草をすると、無線機から彼女の『テステス』という声が聞こえそのマフラーの用途を察した。



『一応人数分揃えたので、13号に渡して置いてください。オールマイトには私から渡しますので』
「蕾も器用だな」
『得意分野なんで』
「そうか……、あんま心配かけるなよ」
『?』
「言い訳が面倒だ」



片手を上げて相澤はバスへと向かう。その背中を見つめながら彼の意図に首を傾げた。
だがそれも、バスに乗車した時に気がつくのであった。



「こういうタイプだったくそう!!!」
「イミなかったなー」



バスの座席が通常とは異なった座席配置だったために、飯田が悔やんでいた。
そんな飯田に芦戸が軽々と笑っている。



『ごめん、出久くん。もうちょっと寄れます?』
「あっ!は、はいぃ!!」



出席番号順によれば禄は後部座席になるのだが、席が空いていなかったために緑谷の隣へと無理矢理詰めて座っていた。
密着状態になっている現状の緑谷は不慣れなために、顔を真っ赤にして意識を余所へと集中させているが、目の前に座る上鳴は「あー超うらやましぃ〜わ」と語尾に憤怒を込めていた。



「私思った事を何でも言っちゃうの緑谷ちゃん」
「あ!? ハイ!? 蛙吹さん!!」
「梅雨ちゃんと呼んで。あなたの”個性”オールマイトに似てる」
「!!!」



緑谷は左に隣席する蛙吹に声をかけられやはり、照れていた。だが、彼女の着眼点は鋭く、あっさりと類似点を見破られてしまい。困り慌てる緑谷は視線を右隣にマフラーに顔を埋めて目を閉じている禄へと助けを求めたが、眠っていると判断しますます八方塞となった。



「そそそそそうかな!? いやでも僕はそのえー」
「待てよ梅雨ちゃん。オールマイトはケガしねぇぞ。似て非なるアレだぜ。しかし増強型のシンプルな”個性”はいいな!派手で出来る事が多い!俺の”硬化”は対人じゃ強えけどいかんせん地味なんだよなー」
「僕はすごくかっこいいと思うよ。プロにも十分通用する”個性”だよ」
「プロなー!しかしやっぱヒーローも人気商売みてぇなとこあるぜ!?」
「僕のネビルレーザーは派手さも強さもプロ並み」
「でもお腹壊しちゃうのはヨクナイね!」



切島のおかげで話題は反れ、プロについての人気へと移行する。



「派手で強えっつったらやっぱ轟と爆豪だな」
「ケッ」



名を出され爆豪が反応を示すが、後ろに在席している轟は禄同様目を閉じていた。



「でも外見も含めるなら禄ちゃんも人気出そうよね。主に女の子に」
『つ、梅雨ちゃん…女性って限定するの辞めてくださいよ』



蛙吹の言葉に聞き捨てなれなかったのか、禄は目を開けて即反論を返した。それによって眠っていた訳ではないのだと緑谷は推知してしまう。



「あれ?どうして?格好いいわよ禄ちゃん」
『梅雨ちゃん…』



困った顔をしても強く言えない辺りが、フェミニストなのだとクラスの女子総出で思った周知の事実だった。



「でも爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそ」
「んだとコラ出すわ!!」
「ホラ」



蛙吹の意識が再び爆豪へ向けられ、黙っていられない発言に身を乗り出して反論を返す爆豪の態度からして、とてもじゃないが人気が出るとは誰も思えなかった。



「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげぇよ」
「てめぇのボキャブラリーは何だコラ殺すぞ!!ってかお前、当初から言ってねえかその台詞!!」
「いやー原作基盤で展開するからこの台詞は正規だぜ?」
「あくまで正当化を装うな。つまり、一回しか言われてねえって換算されてるってこったろうが!俺は既にてめえに三回も言われてんだよ!!クソがっ!!」
「そうは言うけどさ、お前がクソを下水で煮込んだような性格なのは代わりないからな」
「殺す!!」
『ぶふっ』
「おい!スカシ女!なに笑ってんだ!!」
『上鳴くんの表現が的確すぎてちょっと尊敬しました』
「邪神がゴリ押しするならもう間違いねえわ」
「てめえらまとめて始末してやらァ!!」



思わず吹き出してしまった禄に対して爆豪の標的に加わってしまいマフラーを口元まで覆いながらも上鳴と笑っていた。
そんな姿を頭を抱えて俯く緑谷の内心はかなり阿鼻叫喚だった。


―――かっちゃんがイジられてる…!! 信じられない光景ださすが雄英…!



賑やかなバス車内で後部座席で前部座席での会話に口元を抑えた八百万が眉をひそめる。



「低俗な会話ですこと!」
「でもこういうの好きだ私」
「爆豪くん。君本当口悪いな」



麗日が楽しそうに笑いながら、近くで終始話を聴いていた飯田は改めて爆豪の性質にたいし納得と言った様子を見せていた。
爆豪の隣席にいる耳郎が禄を呼ぶ。それに気がつき席から立ち上がり補助席を出して、耳郎の隣りに座った。



「午前中も休んでたけどなんかあったの?」
『少々病院に行ってました。不法侵入の件で少々体調を崩してしまったので』
「そうなんだ…だったら返信してよ。全然既読つかなかったから変な勘繰り入ったし」
『ごめんなさい…精密検査もしていたので』
「体調が回復なされてよかったですわ」



後部座席にいた八百万も後ろから会話に加わり、睦ましく会話をしている。
それを横目に爆豪は窓辺に肘をつき、外の景色を眺め。轟は相変わらず目を閉じながらも鼻をぴくりと動かした。



『あの後大丈夫でした?耳郎ちゃんのLINEを閲覧したら何だか文章の端々から怒りが伝わるので』
「それね。そうそう、それそれ。マジで最悪だった」



禄の腕を掴み耳郎が「ねえ訊いて!」とせがむ女子のように迫ってくるのを受け止める禄。だがそれだけに留まらず両肩をガシっと後ろから八百万に掴まれて「私も!」と只ならぬ雰囲気を感じとったのか、禄は若干の申し訳無さを心に抱きながら話を聴くことにした。



「禄たちと一旦逸れたんだけど、あんた背高いし、髪白いから目立つし、隣りに居る轟も白いから直ぐに見つけてさ。傍に行こうと近寄ったらいきなり腕を掴まれて」



掴まれた手首にはくっきりと跡が残っている。かなり強く握られたのだと推察した。



「最初掴まれたときはそんなに強くなかったし、寧ろ助けてくれる感じだったんだけど。それが急に力任せに握られた途端、引き寄せられて目の前にクソを下水で煮込んだ奴がドアップ。んで……怒鳴られた」
「……」



素知らぬフリをして爆豪はバスの窓から通り過ぎていく景色を眺め続ける。
耳郎はまだ根に持っているのか鋭い眼差しで一瞥していた。



「怒鳴られる意味わかんないんだけど。マジで痛かったし。ふざけてんでしょ。つぅーか離れるなクズってなに?」
『あー、はははは。本当にクソを下水に煮込んだ奴ですね』
「上鳴に一票だわ」
「それは酷いですわね」



女子三人の視線はわりと痛いだろう精神的にも身体的にも。眼力のある三人なら特に。



「んで、ヤオモモは?」
「私は……」



八百万が轟へ視線を投げながらおずおずと口を開いた。



「轟さんに……抱きしめられましたわ」



その言葉は衝撃を喰らうほどの強烈なモノで耳郎と禄は口元に手を置いて轟へ視線を投げた。轟の眉が少し寄せられているところを見ると、彼は眠ってはいないようだ。



「どういう状況よ、ソレ」
「抱きしめられた、とは語弊がありますね。耳郎さんと同じく私も禄さんを目印に近寄り、腕を掴まれましたが。背後から人波に押されてしまって身体のバランスを崩してしまい、それを受け止めてくださったのが轟さんでしたの」
『熱い抱擁ですね』
「紛れもない言い訳か」
「や、やめてください!別にそういう意味の篭ったものではないですわ!あれは……誰かと勘違いをなされていたような……」



八百万は再び轟へ視線を向ける。その様子を見ていた禄は肩に置かれた八百万の手に手を重ね、耳郎の腕を掴む手にも重ねて謝罪の気持ちが溢れた。元を正せば禄が身代わりのためにふたりに宛がった所為で引き起こされた事故である。



『ごめん(申し訳ない。まさか若人がそこまで大胆に行動を起こすとは夢にも思って無かったわ。これが本当のジェネレーションギャップ)』



そのたった一言の謝罪に、八百万と耳郎は茫然としながら次第に禄を掴む手に力が篭った。



「いいえ!気にすることないですわ!腫れ物に当った程度です!」
「そうだよ!下水なんて洗えばなんとかなるからさ!」
『そ、そう…そうですか? ふたりが何ともないならそれでいいですけど』



そんな女子を懐柔してしまう禄を尻目に「下水」と「腫れ物」呼ばわりされた爆豪と轟の二次災害は酷く炎症を起こしていた。反論をしたいが、実際に自分たちに非がある分、爆豪でさえも口を閉ざして言葉を呑み込んだくらいだ。
それ以降も三人で話したが、そろそろ座席に戻ると禄は立ち上がり。八百万も自分の席まで戻って行った。
再び緑谷の隣に腰を下ろすと「おかえりなさい」と声をかけられ、何だかくすぐったく感じたのか頬を人差し指でかきながら「うん」と答えている。
背もたれに深く腰掛けてマフラーを口元まで引っ張り目を閉じる禄。



『(大胆だな)』
「(現行犯が何を言ってるの禄ちゃん)」
『(いや、悪気はない)』
「(一番性質悪いから)」
『(まあ、この話を置いておいて。どんな感じ?)』
「(システム修繕は完了したよ。これから強化に入るけどそっちが着く頃には終わるし、今のところ妨害はなし)」
『(引き続き頼むわ)』



無線機で融と会話をしたのち、一旦通信を遮断した。それから暫くして緑谷の肩にコテンと寄りかかった。周囲の人たちと話していた緑谷は自身の肩に重みを感じてそちらへ首を寄せれば、視界に飛び込んだのは禄の端整な顔だった。



「ッッ!!!?」



あまりの驚きに声すら出なかった緑谷だが。こんなに無防備に寝息を立てている禄を目撃するのは初めてだった。よくよく観察してみると彼女の目元は薄っすらと血色が悪く、黒ずんでいる。夜更かしをするほど何かをしていたのだと緑谷だけはすぐに察知出来、安らかに眠っている彼女を起こすのも忍びないと踏み、起こさないように身体を硬直させた。
気恥ずかしそうにそわそわする緑谷と寄りかかっている禄の光景を爆豪の鋭い視線と轟が目を開けて見ていたことは、誰も気がついてはいなかった。



「緑谷サンッ!……俺とその位置交換してください!!」



上鳴が土下座して緑谷に、位置の交換を求めたのは……別の話だ。



「もう着くぞいい加減にしとけよ…」
「ハイ!!」



相澤の一声により車内は再び静けさを保った。



「(お前…年頃の少年をからかうなよ)」
『(からかってない。本当に寝てた)』
「(……マジか)」
『(上鳴が煩いから起きたんだよ)』
「(マジか……)」



無線で会話をしていた相澤は、禄そんな年頃の女子のような行動に面食らっていた。



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