※2話の閑話
※爆豪視点・短短文



意図も簡単に捕縛され、挙句の果てに敵に利用される所だった。身体を乗っ取るだと?この俺を、だと?
目のつけどころはいい線言っていると褒めてやりたいところだが、冗談じゃないが本音だった。
呼吸を奪われ、四肢の自由を奪われ、個性を発動させて暴れたところで、今の中学生の爆豪勝己ではこんな陳腐な敵にも敵わないのだと思い知らされれば知らされる程、己の無欲差に腹が立った。

もがき苦しむ最中。耳に届いたのはーーー泣き縋りたくなる様な、安寧だった。

全ての柵を忘れて、ただ声のする方へ顔を上げる。
質素なビルの屋上に煌びやかな衣装をまとい、女が神秘的な存在感を放ちながらマイクを片手に謳っていた。
それはどこか懐かしくも感じ、この場に居た全ての人間が聴きいってしまうような中毒性があった。
女と目が合う。碧眼の瞳が淡く漂う様が喉をしつこく通り過ぎる。
敵の拘束が緩んだことを身体で感じれば、好機だと再び暴れ*いた。だが、結局助けれた……誰でもない俺の足元にも及ばない幼馴染に……。

どんな言葉を取り繕うとも、実質助けられてなくても、俺は幼馴染に、確かに救われた、気がした。
だからといって、認める訳にもいかない心情が渦をまいて蠢く。

自宅に戻り、自室の扉を力の限り閉めれば木の歪む音が聴こえた。
鞄を適当に置き去り再び階段を下る。冷蔵庫から飲み物を取り出し、むしゃくしゃしたまま牛乳パックをコップに映さず飲み干す。
母親がテレビをつけてニュースを視聴している。とやかく言われるであろうとある程度想定するが、俺の脚はふと止まった。
何故ならテレビのスピーカーから、あの女の声が聴こえたからだ。
顔を上げテレビへ視線を投げれば、誰かが動画で撮影していたのか、手ぶれが酷いが確かにあの女が映っていた。
音声も雑音で拙いけれど、女の神秘的な声は損なわれていないのがわかる。
ぼんやりと浮かぶ女の微笑みが、あまりにも薄くて、思い出せなくなりそうだった。



「Diva……」



唇に名を乗せれば、ふと思い出した。
冴えない幼馴染が説教されている最中、あいつは顔を上げた。その瞳は一瞬煌めいた。その輝きを辿っていく好奇心は、あの女を捉えた。
女はデクに気がつき、やはり微笑みながら手を振っていた。
薄い淡白じみた微笑みだというのに、デクは短絡的に喜んでいた、気がする。



「……」



徐に取り出した携帯端末機。手慣れた手つきで画面をタップしていき、最後の解答に承諾して1%と刻み始める。
それを確認してから画面をログアウトさせた。だが、そこで終わる事はなかった。



「勝己」



青筋が立ちこめた母親の姿に目線を下げて、何やってんだと自身に叱咤した。



◆◆◆




「あれ、カツキ……その音って!」
「あ゛あ?」
「な、んでもないデス」
「るせぇんだよ」


(……かっちゃん。Divaの歌、着信に設定したんだ)


To be continued......



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