※3話の閑話
※緑谷視点で短短短文



Diva。
謎に包まれているアイドルヒーロー。その歌声は老若男女、全ての人間を虜にしてしまう神秘的な存在。
彼女に対する記述は様々な見解で論争している人々がいる。と、言っても大抵男性だけど。
女性のファンも少なくないけれど、女性たちは彼女の外見に惹かれている人が多いそうだ。
女性らしい曲線を描く体型に、一度は憧れるアイドルコスチュームを着こなしてしまうその美貌。

だけど……本当は、もっとほっそりで筋肉質な男性らしい身体つきなのを知っているのは今の所、一般人では僕だけ。
男性らしいというと語弊があるかもしれない。彼女は列記とした女性だ。
だけど……胸部の部分は大分誤差があるのは、勘違いしてしまう原因なのかもしれない。



『出久くん?』



聴き心地の良い声に呼ばれる僕の名前。まるで自分の名前じゃないみたいで心臓が一鳴きする。
「はぁっ、はぁい!」と背筋をピンと伸ばして挙動不審のように落ち着きを見せない僕に、彼女は隣で面白そうに笑っていた。それは僕をいつも取り囲んでいた嘲笑の類ではなく、もっと穏やかなものに近い。
笑っている姿はあどけない幼子のようで、僕は彼女が纏う空気に酔いしれそうになる。
誰もが羨望の眼差しで彼女を見つめ続ける謎のヒーロー、Divaが僕の隣にごく自然に居ることが何より軌跡のような瞬間だった。



「か、髪っ。そめ、たんですか?」



隣を歩く彼女に会話を提供しなければと謎の使命感で口をつくが、自分の語学力に落ち込んだ。
指摘された彼女は自身の髪を一房だけ手に取ると指先に巻き付けてくるくると回して、応えてくれた。



『そうですよ。流石に白髪の中学生は目立ちますからね』
「あ、あの事務所の人とかに、怒られないんですか?」
『私、個人事務所だから大丈夫ですよ。それに髪を染めるというか髪に色を投影しているだけなんですよ、実は』
「投影? へぇーそんなことが出来るんだ……」



彼女の髪を躊躇せずに一房だけ手に取り、指先で擦り合わせて確認していた。
黒髪にしか視えない。彼女の自毛が白髪なら投影しやすいのかもしれないけど、そんな高度な技術を駆使しているのか。確かにDivaのライブは最新設備が整えられたステージだと聞いた事がある。最新鋭でなければ戦場でライブなど出来ないのも頷けた。
じゃあDivaのときも菫色に投影しているのかな? ステージ衣装がころころ変わるのも早着替えとかじゃなくて何か技術を搭載しているのかもしれない。
そんなことを色々考えていると彼女に再び名を呼ばれて「はい?」と顔を上げたら眼前に美しい碧眼の瞳がふたつ迫っていた。
思わず驚いて「んぎゃあああ!!」と大声を上げて飛び退く。街中を行き交う人々は雑踏の中で一瞬こちらへ視線を投げるが、すぐに何事もなかったかのように振る舞った。
左胸を片手で抑えて、心臓が口から飛び出そうな心境を落ち着かせていた。
するとやはり彼女は僕の頭上でくすくすと喉を震わせていた。あのあどけない表情で。



『もう髪はいいんですか?』
「あ……ッ?!あ、す、すみませんでしたァ――!!!」



両手を上空へ上げて盛大に謝罪する。でも彼女は気を悪くしている様子もなく、僕の腕をつんつんと引っ張る。



『ほら、行きますよ』



彼女は僕の先を歩く。一歩も二歩も先に、歩いて、導いて……。
残り8カ月……期限付きの逢瀬は、何だか胸に風を吹かせるが、背中は押されるばかりだった。



「おい、カツキどうしたんだよ?」
「……あいつ」



まさか彼女と共に海浜公園に向かっている最中をかっちゃんに目撃されていたなんて露程知らずにいた。
後に知ることとなるが、今の僕にはまだ先の話だ。



「緑谷少年……それ盗撮じゃないの?」
「!?」



こっそり禄さんのセーラー服姿を携帯端末の写真機能で撮影して、その一枚を待ち受け画像にしていた所をオールマイトに覗かれてしまった。
ばっ、と隠す勢いで「すみません!!」と90度にお辞儀をするが僕の眼前に突きだされたオールマイトの携帯端末にもセーラー服を身にまとった禄さんがしっかりと写っていた。
互いに目を合わせてから、頷きあった。




To be continued.......



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