休日は羽をのばして

休みの日くらい、ゆっくりさせてくれ。



「ネイガウスさん、早く、早く!」
「はしゃぐな」
「無理!無理だよ!だってネイガウスさんとお買い物だよ!?」



私の手を引くこいつは本当に元気だ。
私が面倒を見るようになってからまだ半年も経ってないが、こいつは年中こんな状態ではないんだろうか。

書庫から見つけた、古い書物。
長年使われてきた書庫には確認されてない書物はこれ以上ないと言われていたが、最近になって、それは見つかった。
見たこともないような魔法円が記されていて、騎士團は安全性を考慮した上で、書物にならい、それを召喚することにした。
そしたら出てきたのがこいつ、苗字名前
ただの人間。見た感じは、高校生だ。
しかしこいつには手騎士の才能が大いにあるらしく(実際あると思う)フェレス卿もこいつを一目置いている。



「あ、あのお店入りたい!あのお店!」
「…一人で行ってこい」
「えー。わかったよー」



目当ての店を見つけたのか、名前はさらに興奮した様子でその店を指差した。
私の腕をぐいぐい引くが、私は足を止める。
その店はいかにも女しか入らないような、そんな店。
そんな店に私が入るわけがない。と、あいつも分かっているのだろう。もっと駄々をこねられるとも思ったが、あっさりと私から手を放し一人でその店に入っていった。
疲れた。
私はその店の前にあるガードレールにもたれかかる。
まだ買い物に来たばかりだが、私は早くも疲労を感じていた。
女の買い物は長い。
分かってはいたが、なぜか断れなかった。
それは多分、あいつが必死に私を説得してきたから、だろう。

それから20分くらいして、そいつは出てきた。
手には何かを持っている。
何を買ったのか聞くと、笑ってごまかされた。
腑に落ちないが、また名前に手を引かれ、私たちは歩き出す。

そこからは、なんだ、地獄かなんかだったかもしれない。

振り回される。
その言葉がしっくりくる。
あちらこちらをぐるぐる回り、買わずに店を出てはの繰り返し。
こっちとこっち、どっちがいい?
どっちでもいい。
この会話を、何度したことだろう。
やっと終わったと思ったら、そいつは次は噴水広場に行きたいと言い始めた。



「行ってどうするんだ」
「どうもしないよ。帰る前に休むの!」



もう、今さらだ。好きにしたらいい。
小さく、しかし深いため息をつき、あれだけうろちょろ動き回って、なおも元気なあいつの後ろを静かについていく。
両手には大きな袋が1つずつ。
右手には1番最初に買ったときの小さな袋もあった。



「ネイガウスさん、コーヒー飲む?」
「ああ、頼む」



突然そいつは私の方を振り返り、前に見える自動販売機を指差した。
特に躊躇うこともなく、ブラックのコーヒーを頼んで私は近くにあったベンチに腰をかけた。
ちょうど、目の前に噴水が見える。
名前も自分の荷物をベンチに置き、財布とその小さな袋だけを持って走っていく。
私はとりわけ、何を思ったわけでもなく、ただ、ぼうっとその噴水を眺めた。



「ねえねえキミ、今一人なの?」
「暇なら遊ぼうよ」



そんな時、聞こえてきたのはいかにも、頭の悪そうな声だった。
何気なくそっちを見ると、まさかその声の奴らに絡まれているのは名前で、ギョッと目を丸くさせたが、すぐにため息が出てきた。
何をやってるんだ、あいつは。



「一人じゃないですから」
「えー。連れどこよ」
「一人じゃん」
「いや、人待たせてるんで行きますね」
「まあまあ、もう少しお話しよ…」

「名前。帰るぞ」



世話のやける。
気が付くと私はベンチから立ち上がり、名前の頭に手をのせ、引き寄せていた。
ネイガウスさん!と嬉しそうにそいつが私の名前を呼ぶ。
名前に絡んでいた奴らは、私を見るなり面白くなさそうに顔を歪めて、去っていった。



「…お前は、そんなアホ面をしているからああいう輩に絡まれる」
「うへ、ふへへへっ私の顔のせいじゃないもん〜」
「にやにやするな」
「無理!」



ありがとう、ネイガウスさん。
満面の笑みで、そう言ったそいつの頭をぐしゃりと撫でた。
こいつは、馬鹿だ。
こいつ以外に、私にこんな顔を向けてくる奴は、いない。
素直過ぎる馬鹿も、悪くはないが。



「ネイガウスさん、屈んで、屈んで」
「なぜだ」
「いいから!」



言われるがままに、私は膝を折った。
名前との顔の位置が近づく。
改めて思うが、こいつは小さい。日本人は、つくづく小さい奴が多いと思う。
ある程度、名前の身長に合わせると、首に向かって伸びてきた腕。
抱きつくのか。今。こんな公共の場で?いや、そんな度胸のある奴じゃない。
すぐに分かって、拒むことをせず黙っておく。
ただ、はたから見たら、抱きついているようにしか、見えないだろう。
チャリ、と小さく金属の擦れる音がした。
首に冷たい何かが触れたと思えば、名前が私から離れていく。



「…なんだこれは」
「お礼。いつもお世話になってるし、今日も付き合ってくれたし。シルバーネックレス。ネイガウスさんに似合うと思ったんだ」



首にかかっているのは、身に覚えのないシルバーネックレス。
細めのプレートにはそれからはみ出るように天使、かなにかの片翼の形がプレートにつけられている。



「私のと、対。ペアなんだよ」



何故か自慢げに見せられた名前の首にもかかった私と反対の、それ。
くっつけると、両翼揃うんだ。と嬉しそうにそいつは私のネックレスとくっつけて、恍惚とした顔でそれを眺める。



「束縛、してるみたい」
「まったくだな」
「でも外さないでね!」



返事の代わりに、ネックレスを服の中へしまった。
それを見て、そいつはまた嬉しそうに笑うと私と同じように服の中にしまう。



「ネイガウスさん、また買い物来ようね」
「暇だったらな」



休日に買い物か。なるほど。
こういうのも、悪くはない。





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175000hit 鎖南さんリクエスト
休日に夢主のショッピングに付き合わされるネイガウス先生

遅くなりました!
初の、ネイガウス先生視点ですが、いかがでしょう。
私はこんな休日ショッピングを所望します。
お持ち帰りは鎖南さんのみです。
175000hit、ありがとうございました!
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