8.好きなもの


「遅かったな白布、と、逢坂か。」
「その辺ぶらぶら歩いてたのでとっ捕まえてボール出し手伝うように言いました。」
「そうか、助かる逢坂。」
「あ、ありがとうございます!」

今のはお礼言うべき場面だったのかな、多分違う。
そんな事を頭の片隅で考えつつ、仮入部の期間でもやっていたボール出しの準備をする。
そういえば前ボール出しした時は色んな先輩達がいたけど、今は白布先輩と牛島先輩しかいないんだ…。間近で牛島先輩のスパイク見るのはひょっとしたら初めてかもしれない。

白布先輩がトスを牛島先輩にあげて、やっぱり凄く綺麗な姿勢で打つ牛島先輩を見て、釘付けになってしまう。頬は紅潮していくし、心臓は外に聞こえそうなほどバクバクうるさくなっている。
でも今は手伝っているんだから牛島先輩に見惚れているだけでは駄目だ、明日から正式にマネージャーになるんだから牛島先輩を見るだけじゃなくて他の部員の人達も、というよりバレー部の一員としての自覚を持たなければ。





白布先輩が何やらトスに納得行かなかったらしく、納得が行くまで意見を出したり2人で考えてるのをボールを出しながらぽけっと眺めてたら、いつの間にやら外は暗くなってきていた。春だし夕方でも夏より暗くなるのは早い、そろそろ完全下校時刻かなぁ、と考えた矢先に放送が流れた。

「これ以上はオーバーワークにもなる、それにまず寮に入れなくなるからそろそろ切り上げるぞ白布、逢坂。」
「わかりました、すみませんかなり遅くまで付き合ってもらって。」
「いや、いい。」
「…やっぱり凄いですねぇ…。」
「?何だいきなり。」

絶対王者の白鳥沢、そんな言葉がつくくらいだからそれなりに予想はしてたけど改めて強さを目の前で見せつけられた感じだ。今まで牛島先輩がスパイクをやる度にかっこいい!しか考えてなかったけど、今日は当社比割と冷静に見て、そんな事を考えてしまった。
強さには努力が絶対付いてきてるんだなぁ、あと、

「いえ、白布先輩も牛島先輩もバレー大好きなんだなぁって思って。」

そんな事を2人に言えば、一瞬キョトンとしてたけどすぐに当然、みたいな言葉が返ってきた。ですよね、好きじゃなきゃ続けませんし努力しませんよね。
割と、というかかなり不純な動機で入った部活だったけど、この人達のバレーを見るのは私も好きだし楽しい。無意識に頬が緩んじゃう。

「逢坂は好きではないのか?」
「へっ!?」

急にそんな質問をされて戸惑う。いや、白鳥沢のバレーを見てるのは楽しいなぁって思ったけど、多分牛島先輩は全体的な意味を含めて聞いてる気がするからこれで好きって答えて合ってるのか違うのか。
でもわかんないです、って答えて何だこいつとも思われたくないし、いや嫌いじゃないですけど。
戸惑いながらも牛島先輩を見つめ返せば、返ってくるのは真っ直ぐな視線だけ。
…正直な気持ちを言えば、いいかな。

「…バレーに関しては、本当高校に入って初めて触れたようなものなのでまだ好きかどうかと聞かれたらわかんないです。」
「それで?」
「え?」
「続きがあるのだろう。」

牛島先輩には何でもお見通しなのか………そんな気持ちで白布先輩を見ようとしたけど既に帰る準備をしていた。片付け終わってるし早くない!?いつしたの!?スマート白布先輩……本人に言ったら怒られるな…。
思考が逸れた。

「わかんないですけど、でも、白鳥沢のバレーを見るのは大好きです。」

特に牛島先輩の、と心の中で付け加えて牛島先輩を見………、…上げた先の表情を見て、思わず固まってしまった。
ほんの、ほんの少しだけ口角が上がっていて、いつもキリッとつり上がっている眉毛と目が和らいでいる……つまり牛島先輩がほんの少しだけ笑っていた。
その顔は少ししか見れなかったけど確かに笑っていて、私を大混乱させるのには充分で。

「…いずれ逢坂がバレー全体を好きになればいいな。」
「そそそそそそそうでひゅね!?!?」
「?何をそんなに慌てている?」
「あ、え、あ、なんでもないですうしじませんぱい…。」

そういえば2人きりになっていた、というのも思い出してさらに慌てている。もう本当あんな堂々と告白したんだから少しは慣れて自分。無理です。

大混乱しながらもあの後片付けをして、今日は送られずにそのまま私がダッシュで女子寮へ直行した。勿論お疲れ様ですを忘れずに。
しっかりしろ自分、これから牛島先輩を振り向かせるためにちゃんと使える頭を使うんだ自分。勿論マネージャーの仕事も覚えながらね。

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