9.策を練って失敗して進展

ぶっちゃけると詰んでいた。
何がって、牛島先輩と近づけないことである。恋愛脳かお前って言われたらはいそうですって頷く。仕事はちゃんとしてるから許して欲しいです。たまに牛島先輩に目がいって流れ弾に掠ったり、思い切り転けてタオルをぶちまけたりして監督にこっ酷く怒られたりする事もあるけれど。

振り向かせます!ってめちゃくちゃ堂々と言ったのもあって、私の噂は3年生は勿論1年生2年生にまで広まっているらしい、ていうか広まっている。この前監督に言われて、川西先輩に言伝を伝えに行くために2年生の教室に行ったら見知らぬ先輩に「あ、牛島先輩に告白した子だ。」とか言われて固まった。
まぁそれもあって周囲からの視線で牛島先輩に話しかけに行きづらいのである、元より3年生の教室とか行きづらいけどさ……。それ以前にお昼とかバレー部で食べてるらしいから混ぜてほしいとかちょっとは思ってる………いやめちゃくちゃ思ってる……五色君とか既に食べてるらしいんですよ羨ましいにも程がある…。

「どうすればいいかなぁ…。」
「そもそも何も考えずに振り向かせます!とか無謀にも程があるだろ。」
「ねぇ五色君せめてこっち見て言って欲しいんだけど?ねぇ?いつもの部活中の熱血さはどうしたの?なんか私にだけドライじゃない?ドライ五色君なの?」

こちらを見ずに平然と事実を突きつける五色君はなんと冷たいよよよ〜、と泣き真似をすればめちゃくちゃ冷たい視線が突き刺さった気がする。本当に私にだけドライすぎやしないだろうか、同級生だからなの?そうなの?
でもまぁ言われてることは真実だし事実だった。だから何かしら作戦を考えたい。なので思いついた作戦をポンポン言ってみることにした。

「お色気作戦。」
「そもそも逢坂に色気ないだろ。」

というより牛島さんはそんなんで落ちる人じゃない、と付け加えられて納得する、そして最初に言われた言葉はスルーを決め込む。

「いじらしく可愛くいかにも後輩の女の子の雰囲気で………私…牛島先輩が好きなんです…。」
「10点。」
「人の渾身の演技を!!」
「キャラが違う。」

知ってるよ!!と自分でも思ってしまうのでなんか凄く落ち込む。この作戦あれだよね…もっと可愛くて胸があって上目遣いが似合ってとにかく可愛くて大人しい子向きだよ…。少なくとも、というか絶対私ではない…。

「うううだめだ何も思いつかない〜!!もう本当ドストレートに好きです!って牛島先輩に告白するしか出ない〜!!」
「…別にそれでいいんじゃないの。」
「え?」

驚いて見た先にはさっきと特に変わらない表情の五色君がいて、意味がわからずに首を傾げれば、少し呆れたようにため息を吐かれた。

「無理に逢坂がキャラじゃない振る舞いして牛島さんに告白しなくてもいいだろ。お前はお前らしくやればいいって話。」

五色君の言葉は、正に目から鱗だった。





「あ、のっ!」
「?あれ弥子ちゃんじゃ〜ん?どうしたのお昼〜?」
「は、はい!今日、その…。」

お昼、いつもは教室で友達と食べるけど今日は食堂に来ていた。勿論ちゃんと友達に言ってから。
背が高くて目立つバレー部の皆を視界に入れて、買っていたパンを持ってそっちの方へ向かって声をかければ、天童先輩が気づいてくれた。それと同時に他の先輩達も。
少し牛島先輩と目が合った気がして緊張が更に煽られたけど、ここまで来たんだから早く言えと自分で自分を奮い立たせた。

「バレー部の皆さんと食べたいなって思いまして…!!」


ガヤガヤと騒がしい食堂でも、ちょっと声が大きかったのか響いた気がした。今まで特に何も接触無かったのにいきなりおかしいんじゃないかとか、男の人同士で食べた方が話も弾むし楽しいから私は正直邪魔だろうなと思いつつも発言したのは取り消せない。

……いつまで経ってもこない返事に意を決して、ちょっと俯いていた顔を上げる。

「……へ?」

そこには何故か牛島先輩の隣が見事に開けられた光景が広がっていて、また間の抜けた声を上げてしまう。牛島先輩の目の前で何度あげたのかな…。

「逢坂、若利の横に座ってもいいぞ。」
「というよりそれが目的だろ逢坂は。」

大平先輩と山形先輩が笑顔でぽんぽん、と牛島先輩の横の席を叩いてくれている。
お見通しですか、ですよね。でもバレー部の皆さんと食べたいのも本音なんですよちゃんと…。ていうかどれだけ優しい先輩達なんだこの人達…!!一生ついていきます…!!

「し、失礼します、牛島先輩。」
「あぁ。」

それまでことの成り行きを見守っていた牛島先輩は、私が座ったことを確認すると食べるのを再開していた。食べてるのはカレー?あとで聞こう、なんてぼんやり考える。
他の先輩達もまた食べることを再開してて、それぞれの話を弾ませていた。
じわじわと、牛島先輩の横でご飯を食べられているという事実に凄く嬉しくなって口角が上がるのを抑えられずにいる。
いつもと同じパンを食べてるはずなのに、ちょっと美味しく感じたのは気のせいじゃないはず。

そしてこれは先輩達にジュースでもなんでも献上しなければと考えた。勿論五色君にも。
1/15
prev  next