7.様子見という言葉を知らない


あの朝の出来事から放課後、部活も一通り終わって片付けをそれぞれ開始している。
朝は牛島先輩に合わせる顔がないうわあああってなってたけど、今は割とスッキリしているし普通にドリンクとかタオルも渡せた。牛島先輩も特に気にしてなさげだったし、別に今までと同じって感じだろう。
そんな事を考えつつ片付けをしていると、天童先輩がニヤニヤしながらこちらに来ていた。嫌な予感しかしない。

「弥子ちゃ〜ん!朝から大胆だったね!」
「天童先輩その言い方やめてくれません!?誤解生みますよね!?」
「えっでも朝からあんな堂々と若利君に告白してたし。」

大胆って言わずになんて言えばいいのかな〜!?なんてわざとらしく大声で言う天童先輩に表情筋が引き攣ってしまう。確かに近くで見られてたし堂々と告白したけどね!別にいいけどね!これからもそうするつもりだし!あくまで邪魔しない程度に!!

「いやでも、逢坂来た時から若利やけに見てるなとは思ったから予想はついてたけどさ。」
「うう…瀬見先輩も見てましたもんね…。」
「見てなくてもあんな所でやり取りしてたら声で気づくっての。」

見事に言い返せず撃沈しながら片付けを再開する。スッキリはしたけど、あんな堂々と告白して恥ずかしくなかったとかと聞かれたらいや恥ずかしかったですと即答出来る。

「逢坂いじるのもその辺にしてあげなさいよ。あと逢坂、監督が呼んでいたから片付けは俺達に任せて行っておいで。」
「監督が?」
「ああ、多分本入部についてだと思うぞ。」

大平先輩の天からの助けに感謝しつつ、そういえば今日で仮入部期間終わりだったっけ、と思い出す。
いくら監督に呼ばれてるとはいえ3年生に片付けを任せていいのかな…。

「あんまり遅くなると怒鳴られるぞ。」

迷っているのが伝わったらしい。
怒鳴られたくはないので、お願いします、と頭を下げて監督の所へ走った。
よく見たら私以外の1年生も見当たらなかったため、先に行ったんだろうな。





「んで、逢坂お前入部すんのか。」
「勿論!!」
「でけぇ声だな。まぁやる気が見えんのは別にいい、それじゃあこれにクラスと名前書いて今俺に渡せば終わりだ。」
「わかりました。」

監督の所に出向けば入部するのか否か聞かれ、勿論入部すると決意しているのでそのまま本入部届けを貰った。これ書いたら正式なマネージャーになれる、そう考えて思わずウキウキしてしまう。
最初は勿論牛島先輩目当てで入ったんだけど、手伝いや見ていくうちに楽しいなぁって思ってたのもある。あと先輩達も同じ1年生もとてもよくしてくれる。まぁ話せてない先輩もいるけど…。それはこれからかなぁ…。

「終わりました。」
「じゃあこれ受け取れ。」

そう言って渡されたのは紫と白のジャージ。背には白鳥沢学園とあり、牛島先輩が着てるやつと同じだ…!なんて思う。これ瀬見先輩が聞いたら俺達もだよ!とかツッコまれそう。

「明日からそれ着りゃいい。下は今までと同じ練習着でも構わねぇ、基本外に行く時はそれ着ろ。」
「はい、わかりました!」

外に行く時は試合とかかな。試合はまだ見たことないけど、練習風景をみているだけでも凄いのは伝わってくるから今から見るのが楽しみだ。
もらったジャージを鞄に丁寧にしまい、後は特になにもないらしくもう帰れ、と監督に言われた。
窓から外を見れば少しだけ暗くなっているのに気づき、足早に失礼しました、と頭を下げて扉を閉める。


「…牛島先輩はまだ自主練してるのかなぁ…。」

不意にそんな事が過ぎり、帰る方向とは真逆に足を進めた。いくら何でも自主練にまでいたらしつこいかな、ちょっと見るだけなら構わないかな、構わないと思いたい。
そんな事を考えてると、前から見知った顔が見えた。

「白布先輩!」
「?ああ、逢坂か。なに、また牛島さんの自主練見に来たのか?」
「ご名答です。まだいます?」
「いる。今日は俺の自主練にも少し付き合ってもらってるけどな。」

なるほど、そういえば白布先輩はセッターだったな、なんて数日で覚えたポジションを頭に浮かべる。

「…あぁそうだ。逢坂、どうせ見てくならボール出ししろ。」
「………えっ?」

まさかの白布先輩の言葉に、今日何度上げたかわからない素っ頓狂な声を上げてしまった。
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