11.5 変な後輩


「牛島先輩が、好きです」

顔を上げ、こちらを真っ直ぐに見て少し前に言われた言葉と同じ事を紡ぐ逢坂を見て、一瞬言葉に詰まった。
すぐに応えられないと返したが、逢坂は傷ついたような表情を一切せずにへらりと笑い、送った俺へのお礼を言って寮に戻った。
自分以外に誰もいない、しかも女子寮の前でいつまでも突っ立っているというのは嫌だったので、少しの疑問を覚えながら男子寮の方へ足早に歩く。

変な後輩、俺から逢坂への印象はそれが一番強かった。



最近はよく逢坂の事について聞かれる事が増えた気がする、というより増えた。
よく聞かれると言ってもバレー部の部員からだ。そして現在進行形で天童から同じような質問が飛んできている。

「ぶっちゃけ若利君って弥子ちゃんの事どう思ってんの?」
「…?ただの後輩でマネージャーだが。」
「え〜!?あんなに堂々と告白されておいてそれなの〜!?」
「何を期待しているのか知らないがそれ以外にはない。」

そう返せば、何か期待をしていたような天童は肩を落としてわざとらしく拗ねてみせる。
どうも何も、まだ出会ってから長いと言うわけでもないのにそれ以外に何があるという話だと思う。…逢坂は何故か好意をよせているようだが。

「…?」
「ん?どうしたの若利君。」
「…いや、」

そういえば逢坂は俺に好きだとは言ってくるが…。

「逢坂は何故俺の事を好いているのだろう…?」

理由は全く聞いたことがなかった。自分から聞くのは何か違う……気がする。こういう話は正直よくわからないので得意ではない。大平や山形に聞けばわかるだろうか、だがあの二人が逢坂が俺を好いている理由を知っていたらそれこそ違うというよりおかしい。

「そんなの弥子ちゃんに直接聞けばいいんじゃない?」
「直接?」
「うん直接。弥子ちゃんならほいほい答えてくれそうだよネ。」

本人に平然と言えるようなものなのだろうか、そう言おうと思ったがチャイムが鳴り、天童は自分の教室に戻って行った。
直接…か。
昼の時逢坂は俺の横に座るのが当たり前になっているから、その時に聞けばいいのだろうか。だが周囲の人間がいるから逢坂は恥ずかしいとかいう理由で言わない可能性もあるか?個人的にはよくわからないが、恋愛云々の話は当人達以外の人がいる所でする話ではないと瀬見にいわれた。
……今までそういう事に目を向けなかったぶん、分からないことが多すぎるな。別に後悔は一切しない、そしてこれからもそういう人生を続けていくのだろう。

…とりあえず、二人になれるタイミングを見つけて話しかければそれでいい、のか?そもそも理由を聞く必要はあるのだろうか。
…考えれば考えるほどにわからない、とりあえず今は授業を聞こう、それが最善だ。

俺にとって逢坂弥子は変な後輩、ただそれだけの存在だ。それ以上でもそれ以下でもない。

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