6.幸か不幸か


「おはよう五色君今日もかっこいい前髪だね死にたい……。」
「………朝練から変だ変だとは思ってたけどどうしたんだよ逢坂……。」

どうやら私は朝練からおかしかったらしい。なるべく態度に出ないようにしてたけどダメだったらしい。というより五色君に朝っぱらからこんな事を言ってしまう時点でアウトである、五色君ごめん。

話は逸れるけどというより逸らさせて欲しいのだけど、五色君とこう話している理由は同じクラスで席も近く、同じ部活に仮入部したということもあり部活のこととかで話すようになった。それに牛島先輩の話題で盛り上がるのもある。私は尊敬と好…きなのだけど五色君はライバル視?対抗心みたいな感じの話。

話を戻してしまうとなんかもう昨日の事で一睡も出来てないから非常に眠い。そして無理埋まってしまいたい……みたいな感情が頭の中を支配している。五色君の顔も見ずに机の上に突っ伏した。

「お前あからさまに牛島さん避けてたよな…。」
「ぬぁっにいってそんなわけないでしょ!?」
「悲鳴が全く可愛くない。」
「失礼な!!」

女の子に対する発言がなってない!と顔を思わず上げれば目が合った五色君に酷い顔、と言われる。ええいどうせ一睡も出来てなくて隈が酷くて酷い顔ですよくそう。

「はぁ……本当昨日のやらかす前に時間戻して神様…。」
「本当何かしたのか?…牛島さん避けてるって事は牛島さん関連だろうし…昨日牛島さんにドリンク誤ってぶっかけたとか?」
「そんな無礼なことするわけなかろう…」

何時代だよ、と五色君にツッコミを頂きつつ放課後の部活についてぐるぐる考えてしまう。
朝練はドリンク渡す時もタオル渡す時も他の1年生にお願いして私は別の人に渡しに行っていたのだけど、今まで積極的に牛島先輩に渡しに行っていたぶんかなり怪しまれた。怪しまれたというか何で?ってめちゃくちゃ聞かれた。乙女の悩みよ放っときなさい…なんて台詞が似合う美女になりたいものである。現実逃避できるものならしたい。

「……五色君さぁ。」
「何だよ。」
「……本当少ししか話したことない部活の後輩の女の子に、いきなり告白されたらどう思う…?」
「…………は?」

また私は頭が回っていなかったようだった。





驚きはするけどダメなら断るし、というよりそもそも逃げるとか失礼にも程があるぞ牛島さんと話してこい!!

という五色君のお言葉により何故か教室を追い出され3年生の階にいる。
いや、いやいやいやいや、何のいじめですかこれ。こっちは入学ぴちぴちの小さい1年生ですよ。それがいきなり3年生とかいうラスボスの所に踏み込むとかそれはつまり死んでしまうやっぱり帰ろう。意気地無しの称号頂いても構いません。

「…逢坂。」

神様はいじわるにも程があると思います。

帰ろうと階段を一段下りた瞬間に、丁度登ってきていた牛島先輩と目が合ってしまった。昨日までの私なら顔真っ赤にしてキャーキャー心の中で言っているけど、今の私は会えて嬉しさと動揺と逃げなければという選択肢が出てきたので逃げるを選択することにした。

「失礼します!」
「!待て逢坂!」
「!?」

逃げようと踵を返して走り出すと、牛島先輩がそのまま私の名前を呼んで追っかけてきた。
まっ、ちょ、なんで追いかけてくるの!?待って!?しかもめちゃくちゃ速いんですけど!?

これは無理、数秒で捕まっ……た。

「逢坂、昨日の事だが、」
「あ、あの昨日の奴は本当衝動的だったので!忘れてくださって構いませんから!」

必死に腕を振って脱出を図ろうとするけれど、普通に牛島先輩の腕力に勝てるわけもなくその抵抗は無意味に終わっている。
周りの3年生が興味本位なのかめちゃめちゃちらちら見てくるからやめて欲しい……あっあれ天童先輩と瀬見先輩だやめて見ないでください…。

「忘れられるわけがないだろう。」

さも当然のように言われた言葉は、見事に私の傷を抉る。いっそ記憶消せる装置か何かがあればけしているのにっ……。
あんなに早く告白なんてしちゃったら、振られるのが目に見えてるのに。本当昨日の私の馬鹿さ加減に嫌気がさしてくる。

「逢坂、俺はお前の気持ちには応えられない」
「…知って、ますけど。」

わかってた。
予想通りの言葉に勝手に傷つきながらも、牛島先輩の次の言葉を待つ。

「そもそも俺は好きという気持ちがよくわからない」
「…え?」

人が沢山いる筈の廊下には静寂が広がっていて、その中で低い牛島先輩の声がよく響いている。そして今の私の素っ頓狂な声も響いた。
気持ちがよく、わからない?

「俺は今までバレーしかしてこなかった、それしか興味が無い。…逢坂が俺を好きという事はつまり、交際をしたいという事だろう?」
「えっえぇ、あ、はいそれは勿論…?」

これはどういう流れになっているんだろう…?一応ここ廊下で公衆の面前ですよね牛島先輩。私これ公開処刑か何かですかね。ていうか見られてるってことはこれ3年生中に私が牛島先輩好きなのバレたよね、あっ死んだ。

「交際をするということはお互い好きでなければいけないだろう。俺は逢坂をそういう風には見ていない、だから交際はできない。」

ん?

「…それって、あの、牛島先輩。」
「何だ」

「…もしも、もしもこれから先、牛島先輩が私を好きになってくれるチャンスとか考えられます…よね…?」
「?まぁ先の事は無いとは言いきれないが。」

…なるほど、なるほどなるほど。
牛島先輩は今までバレーしかしてこなくて、興味が湧かなかった。だから好きって気持ちはよくわからないし、付き合うのはお互い好きでなければ、というお考え。当たり前だけど。
…これってもしかして、チャンスありますよね?

そう考えついた瞬間、予鈴のチャイムが鳴り響く。戻らなきゃ、でもその前に私は伝えなきゃ。

「牛島先輩!!私は貴方が好きです!」
「…?だからそれは応えられないと、」
「知ってます!だから今すぐお付き合いして欲しいとかの意味ではないです!」

牛島先輩がわけがわからないという表情で首を傾げるのを視界に、一度深呼吸をして伝えたいことを頭の中でまとめる。
うん、そうだ、こうすればいいや。

「好きって伝え続けて、いつか絶対牛島先輩を振り向かせます!!」

そう伝え、自分のクラスに戻るべく急いで廊下を走った。
最後に見た牛島先輩の表情はキョトンとしていて、新しい表情が見れたと勝手に嬉しくなる。
こんなの絶対玉砕覚悟だし、振り向いてもらえる確率なんてゼロに等しいけど、それでも私は────…。

「牛島先輩が、好きだから。」

だから、絶対諦めてやるもんか。
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