青の破軍

6


「あああ違う違う! 紺色だってば紺色! 足だけ色が違うでしょ!」


もう日が落ちそうな頃。私は色の違う相棒の足に、いちゃもんをつけていた。

私のHi-νガンダムの基調カラーは紺と白。なのに、みんなペンキがないとか言って真っ青に塗り始めてんの。

他は紺なのに足だけ青。おかしいしかっこよくないよ!


「いいじゃん足くらい違ったって」

「かっこよくないからダメ! だって敵と戦ってるとき、MSがそれとなく決まってたら強そうに見えるもんでしょ!」

「そんなもんかねえ」


ライドがため息をついた。


「でもアイリンさん、ペンキだってタダじゃないんだし、これ以上は……」

「じゃあ聞くけどね、タカキくん。もし三日月が乗ってるバルバトスの足がMWのキャタピラで、顔が敵のMSの緑頭だったらどうすんの? いびつで全ッ然かっこよくないでしょ?」

「どっちの三日月さんでもかっこいいっスよ!!」


タカキに聞いた私がバカだったよ。即答だったよ畜生。

とにかく、元々塗ってあった色と近いペンキにしてもらおうと、指示しようとしたときだった。

また、警報がなった。


『監視班から報告! ギャラルホルンのMSが1機、……えー、赤い布を持ってこっちに向かってる!』




*******




「……それで、なんなんすか? あれ」


30分もあれば、ほとんどの人たちが敵のMSを見に集まってきた。

相手は身動きひとつしない。威厳のありそうな初老のおっさんが、コクピットから仁王立ちでこちらを睨み付けているだけだ。

タカキくんの言ってる『あれ』とは、腕に巻き付けている赤い布のことだ。


「あれは決闘の合図だな」

「決闘?」


おやっさんの言葉に、ライドが聞き返した。おやっさんは何か言おうとしたけど、敵の声がそれを遮ってしまった。


『私はギャラルホルン実動部隊所属、クランク・ゼント! そちらの代表との一対一の勝負を望む!』


一対一で? 勝負?

こんなに堂々と勝負を申し込むところ見るの、始めてなんだけど。


「厄祭戦前はたいがいの揉め事は決闘で白黒つけてたらしいが、まさか本気でやって来るやつがいたとはな」


ライドの質問の続きを、おやっさんが言った。

決闘で白黒つくのか。それはまあいいことですな。多くの血が流れることがない。


クランク・ゼントとかいう人は色々言ってきた。

もしあっちが勝ったら、お嬢さんとろかくしたMS(グレイズというらしい)を引き渡すこと。

その際後始末はあっちが全部して、今回のことはきっちり水に流してあげるとかなんとか。


参番組は困惑した。もしそれが本当なら、とてもありがたい話だ。CGSにとっては。実際ろかくしたMSとお嬢さんを引き渡そうという声も出てきた。

しかし、それは自分達の利益でしかない。それを受けると、クライアントのクーデリアお嬢さんは囚われの身になるということだ。最悪、彼女を待っているのは処刑台、なんてこともあり得る。

お嬢さんは自分を引き渡せと言った。すでに多くの血が流れた、これ以上犠牲を出す必要はないと。

ただでは終わらない、なんとか交渉して話し合いが出来るようにするとも言った。


私がとやかく言う問題ではないから、ただ事の成り行きを見守っていたけど、お嬢さんの言っていることはただの夢物語だ。

軍隊が自分の不利益になることを認めるわけがない。どんなことをしてでも、彼らの都合のいいシナリオに書き換える。……ひとつの機関を成り立たせるには、仕方のないことだ。特にそれが大きければ大きいほど。


オルガも同じ考えだったらしい。お嬢さんの主張は却下された。

つまり、あの初老のおじいちゃんと決闘をする、ということだ。


「……オルガ、私のガンダムは直ってる。いつでも出せるけど」


私はオルガに耳打ちした。


「いや、今回はミカに任せる。あっちはお前のMSのことを知らねえ。今後ギャラルホルンと戦う機会はあるだろうから、カードはできるだけ取っておきたい」


オルガがウインクした。こいつ、これからも私をこき使う気でいやがる。

……ま、上等なんだけどね。


「ミカ! やってくれるか?」


オルガの要望に、三日月はさも当然だというように、あっさり返事を出した。


「お、おい、やるって何を?」

「言葉通りだよ。あのおっさんを、やっちまうのさ」


動揺を隠せないユージンに、オルガが笑って言った。


また、MS戦が始まる。


[29]

*前次#


ページ:



ALICE+