康太はホームルーム直前になってやっと教室に入ってきた。きっと、さっきまで彼女とべったりしていたに違いない。綺麗な顔がだらしなく緩んでいる。

 こっちの視線に気づいたのか、軽く頭を下げてきて、口パクで、悪い、なんて言ってきた。知らんもんね。

 ぷいとそっぽを向く。

 ホームルームが終わって授業が始まると、携帯電話が振動した。

 メールを見てみると康太からで、すねるな、なんて書いてある。すねるに決まってるじゃんって無視をして、ノートにペンを走らせた。

 そのままずっと、康太が話しかけてきても無視をし続けたら、放課後になって教室に現れた鳥井さんから声を掛けられた。

「朝はごめんね。私がわがまま言ったの。康太君に相談があって」

 と、鳥井さんにまで頭を下げられてはもう、こちらが悪者になってしまう。

 悔しいけど、そういう鳥井さんだから康太も好きになったんだろうな。

 無理やり笑顔を作る。

「ううん、僕もちょっと頑固になっちゃった。友達って康太しかいないし、寂しくて。こっちこそごめん」

「そうだよね。明日は三人で登校しよ? 私はぜんぜん平気だし、むしろ三人でおしゃべりしながら登校する方が楽しいもの」

 ……気を遣ってくれているとはわかるんだけど、な。本当は康太と二人きりのほうがいいって思ってるはずだと。でも、それでも――僕なら誰に嫌われても構わないって、二人きりを選ぶのに。

 八方美人なのかな。いや、そんなことない。鳥井さんは優しいんだ。それなのに僕は……

「もうしばらくだけ、でいいから。三人で一緒に登校したり、遊んだりしてもらえると嬉しい」

 声、震えなかったかな。

 鳥井さんがにっこり笑った。

「帰りも一緒する?」

「それはさすがに悪いからさ。それに、康太を待ってたら帰るの遅くなっちゃうし」

 机の上に置いていた鞄を持ち、鳥井さんの隣をすり抜ける。

「気をつけて帰ってね!」

 背中に掛かってくる声に、唾を吐きたくなって……醜悪。汚すぎるこの嫉妬心というものは、どうやったら消えてくれるの。

 これは夢。夢だ。夢に違いない。夢であって欲しい。

 お願いだから誰か僕を助けて。こんなの苦しくて、たまらないよ。

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