*
よかったぁ。夢だったんだ。やっぱり夢だったんだね。
朝起きて、すぐに携帯電話を確認。メールが入っていたことにびくついたけれど、その内容は夢とは違っていた。
――おはよう。今日学校半日で終わるだろう? 部活も休みだから、一緒に遊びに行こう。だなんて。夢の中が辛かっただけ余計に嬉しく思える。
うきうきした気分で身支度をし、いつもより髪を余計に梳かしてから学校へ向かう。もうそろそろ季節は秋だなぁ。街路樹が紅葉してきている。
教室に着くとすぐに彼方が声を掛けてきた。
「おっす。一時間目の課題やったか? 俺やってなくてさぁ」
席に着いて鞄の中身を取り出す。
「やったけど、見せないよ」
「ケチ」
「最近ケチが口癖になってない?」
「なってねぇよ。見せやがれ」
駄々っ子のように地団太を踏まれ、ため息をつきながらノートを手渡してやる。
「早く返してよね」
「わかってるって」
ぴゅーっと音がしそうなほどに急いで自分の席へと行く彼方の背中を見つめ、また、ため息。
「おはよ」
頭上から受けた声に鼓動が跳ね上がった。康太だ。
「お、おはよ」
昨日したキスを思い出して、顔が上げられない。
「帰り、楽しみにしてるから」
ああ、泣きそう。幸せだなぁ。
勇気を出して顔を上げてみると、康太が微笑んでいて、顔が熱くなった。
「僕も、楽しみにしてる」
これは、夢で、なければいいけれど。
ホームルームを終えてもノートは返ってこなくて、授業が始まってからやっと人の手を伝ってそれは戻ってきた。
開いてみたら、課題のページにボールペンで、写させてくれて助かったぜ! とか書いてあって鼻を顰める。
彼方は馬鹿なのか。こんなこと書いていてはまずいだろうに。先生にばれたら僕まで叱られてしまう。
修正液で何とかそれを消す。
窓に映る自分の顔がにやけすぎていて、違和感を覚えた。
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