「何で僕が見せないといけないのさ」
「だってお前の字、見やすいもん」
……あれ? 僕の字を何故知っているのだろう。
疑問に思いながらも手渡す。
「サンキュー。一時間目の間に写すからさ。いいだろ?」
「二時間目には返してよ? 提出しないといけないからね」
「わかってるって」
調子のよい返事をしてきたのに、結局、二時間目までに返ってこなくて――戻ってきたのは昼だった。
家まで看病に行ってもいいかななんて聞いてくる康太へおざなりに相槌を打っていると、彼方がノートを片手にやって来た。
「悪い。写すの時間かかったもんで」
康太が首を傾げる。
「それって数学のノートだろう? 二時間目に提出するんじゃあなかったか?」
「そうだよ。それなのに遅いってば」
顔を顰めて言うと、彼方から頭を下げられて驚いてしまう。
「ごめんて。お詫びに帰りアイスおごるから許して」
「ああ、いいんじゃあないか? 俺も帰りは鳥井んとこ寄るから別だしな」
胸に、棘が深く突き刺さってくる。
鳥井さんのところに寄って、何をするの。ねぇ、どうするの。
キスするの? 僕にしたみたいに優しいキス――違う、あれは夢で、これは現実なんだ。
彼方に肩を叩かれた。
「ほんじゃ、放課後な」
結構強く叩かれたけれど、そんなもの比じゃないくらいに痛む胸。
「チャイム鳴らしたら親御さん出てくるよな? まずは何って挨拶をすればいいと思う?」
僕の中に降る雨とは反対に、康太は太陽のような輝きを見せてきた。
放課後、彼方に引きずられるようにして学校を出た。
「ちょっとさ、お前と話してみたいって思ってたんだよ。いつも康太とベッタリくっついてるから話しかけにくかったけど、な」
コンビニで買ったアイスを放り投げられ、慌ててそれを宙でキャッチする。
「そんなにベッタリじゃあないよ。康太、彼女できたし」
「ああ、そういえば二組の鳥井と付き合ってんだっけ。そら寂しいわなぁお前」
とどめを刺す気だろうか。
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