「や、ごめん。何でもない」

「よくわかんない奴だなお前、面白いわ」

 からからと笑われて、ほっと胸を撫で下ろした。

 彼方に別れを告げて一人で帰宅路を歩いていると、携帯電話がズボンのポケットの中で振動した。

 メール画面を確認する。

 ――初キス、ゲット、か。

 酷いね、康太。僕がお前を好きだって知っておきながら。

 いや、知らない。こっちの康太は知らない。

 あのふっくらとした唇は、鳥井さんのもので。僕のじゃあない。

 空に映し出されている夕焼けが目に眩しい。狂いたくなるくらいの、赤。

 夢だと言って。夢っていうことにしよう。そうすればいいでしょう。

 そうすれば僕は康太の彼氏でいられる。僕の、僕だけの康太。

 好きって気持ちへこんな風に悩む必要もないし、悔しさに歯を食いしばることもしなくていい。

 夢。そう、夢だ。こっちが夢。

 ほら、ほっぺたを抓っても痛くない。

 だから夢はこっちなんだ。そうだって誰か言って、お願いだから。僕を助けて。

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