学校に着くまでの時間がとても長く感じた。

 廊下で鳥井さんと別れ、二人で教室に入ると康太から再度頭を下げられた。

「本当にすまない。悪かった。初めて一緒に登校するというのに、こんな風になってしまって」

 名古屋弁も消えるくらいの真剣さだ。

「いいよ。僕こそ、鳥井さんにあんまり気の利いたことを話せなくてごめん」

 慌てて頭を上げさせる。

 彼方がこちらへ歩いてきた。

「何やってんだお前ら。昨日、俺が帰ってから何かあったん?」

「や、何でもないから。それよりも彼方、今日こそちゃんと課題やってきただろうね?」

 指摘してみると、ゲッと呻きながら頭を掻き毟り、それから媚びたような目線を送ってきた。

「圭さまぁ。今日も頼んだぜ!」

「調子がいいでしょ。いつになったら自分でちゃんとやってくるようになるのさ」

「圭の手を煩わせることはない。俺のを見せてやる」

 康太がずいっと、僕達の間に入ってきた。

 ……少しだけ、頬が膨れているみたいに見えるけれど、もしかして。

 袖をつんつん引っ張って、何とか背伸びをし、耳元に唇を寄せる。

「やきもち?」

 一瞬で康太の顔が真っ赤に染まった。

「何、どうしたんだ? 二人で内緒話は寂しいぞ、俺」

 彼方を無視して見つめ合う。

 ああ、ああ。世界が――とても遠くに感じる。ここにいるのは僕達だけで、他の、誰にも、入らせたく、ないのに……どうして、こんな風に……見ている景色が歪んでゆくような錯覚がするのだろうか。

 胸が高鳴っている。すごく、好きだなって、その綺麗な顔に浮かんでいる赤い色が愛しく思える。

 傍にいたい。ずっと。傍に、康太の彼氏として、僕は――

 そこから先はよく覚えていなくて。

 気がついたら朝を迎えていた。

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