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通勤列車の中で思い出を脳裏へ蘇らせる。
羽島君と最初に出会ったのは去年の秋だ。
残業続きでふらつく足を必死に動かしながら帰宅路を歩いていたのだが、どうしても体が思うようにいかなくなり、公園のベンチへ倒れこんでしまった。
意識を取り戻した時、額に濡らしたハンカチが当てられており、すぐ傍に覗き込んでくるような視線を感じた。
起き上がると胸にかけられていたらしきジャケットが地面へ落ちて……羽島君が、困惑したように微笑んでいて。
彼が介抱してくれたのかと礼を言おうとしたのだが、頭を下げられそのまま走り去られてしまったんだ。
あの奥ゆかしさを、綾部も見習えばよいのに。
その日から羽島君を探して、家を突き止め……ああ、気がついたら干してあった下着へつい、手を伸ばしてしまい――どんなものを着用しているのかがどうしても気になって。
その瞬間手をがつりと捕まれた。あの時の心臓が喉から飛び出るような驚きはもう、一生涯味わう事はないだろう。
そろりとその手の先を見てみると綾部がそこに居た。表情の無い顔で俺に言ったんだ。それは駄目ですよ、と。
そこから戦争が勃発した。何度も羽島君の家に足を運んで、電柱の影へ必死に身を隠し、けれど、その後ろへ綾部が現れる日々。邪魔な事この上ない。
下着もゴミも、先に彼が持ってゆく。年下に出し抜かれるなどプライドが許さないのにあいつは何でこうも抜け目が無いんだ。
ため息をつきながら目的駅へと降りるのだが……まぁいいと、気分を持ち直した。
ポケットの中に手を突っ込む。そこにある封筒へ思わず顔がにやついた。
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