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玄関のチャイムを鳴らす指が震えて仕方が無い。この俺がこんな風になるなんてと自傷し笑ってしまう。
はい? という声と共に、玄関の扉が開いた。ああ君、こんな無防備で本当に大丈夫なのか。せめてインターホンで確認してから出ろよ。
「誰です? 何の用事ですか?」
訝しげに見られた――覚えていないのか。少し落胆してしまう。
「君、五股かけているって本当か?」
直球で出る。というよりも俺は直球しか投げられないんだ。
顔を顰められてしまった。
「はぁ? いきなり何を――ああ、もしかして知美の彼氏か何か? あいつから抱いて欲しいって言ってきたんだぜ? 俺に文句を言うのはお門違いだろ」
……何だか抱いていたイメージと違うのだが。
とりあえず誤解は解かねばならない。ついでに、というかこの勢いで告白をしてしまおうか。
「違う。俺は羽島君が好きで心配なん――」
「何だてめぇ! 気持ち悪りぃ!」
叫ばれ、ドアを思い切り閉められてしまった。
慌ててそこを叩く。もしかしたら覚えていないかもしれないと思って、自宅からあのジャケットを持ってきて良かった。
細く開かれるドアの先から、糸目が見えた。
「あんだよおっさん!」
「このジャケット、君のだろう? 俺たちは初対面じゃあないよ」
薄い皮のジャケットをドアの隙間から見えるように突き出すと、はぁ? とまた訝しげな声が届いて――
「それ……あんた、財布をいただこうとしたあの時の――やべっ」
また、ドアを乱暴に閉められてしまった。
――あれ、これは一体。今のこの状況はどういう事だろう。
ぼんやりと足を動かす。桜の花びらが足元へ落ちてきた。
「岡本さん」
綾部の声が聞こえる。
見られていたとは情けない。その、同情したような響き。
「はっ。笑いたきゃぁ笑えよ」
吐き捨てると肩をそっと叩かれた。
「俺の家、近くなんで寄っていきませんか?」
断る理由なんて無い。俺の恋は終わった……と、綾部の提案へ頷いた。
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