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綾部の部屋は男にしてはとても綺麗に片付いていた。
示されたベッドへ座り、ため息をつく。持っていたジャケットを床に落としてしまった。
「勝手なことをするからですよ」
言われ、頭を掻き毟りたくなる。
綾部が隣に座ってきた。
「羽鳥君は同性を受け入れないようだし、お前も失恋をしたようなもんだなぁ」
目蓋を閉じながらそう呟くと……何か柔らかいものが唇に触れたぞ?
「もし失恋をするのだとしたら今から、かな」
声が近い。そろりと閉じたものをまた、開かせる。
綾部の顔が視界いっぱいに広がっていた。
「な、何でお前――」
と、続きの言葉は彼の口の中へ吸い込まれて――当たる、唇の熱。濡れた肉が隙間をつん、とつついてきた。
何なんだ。混乱していた頭へ新たな色が加わって、もうぐちゃぐちゃだ。
背中に手が回ってきた。そして体を反らされ……どうして、押し倒されるのか。
そのジャケットを触るな――って、何故それを羽織るんだ。
「やっと戻ってきた」
静かに言う、その唇の動きがやけに艶かしくて。
「あいつなんかをストーキングする訳がないでしょう。俺がずっと見てきたのは、岡本さんなんですからね。あの日、公園でいきなり倒れこんだ時には本当にびっくりしましたよ。それにしてもまさか貴方を助けたのが羽島の手柄になってしまうとは」
初めて見せる綺麗な笑み。艶やかな黒髪が、揺れる。微かに頬が赤らんでいて……窓の外から届いてきた燕の、ちゅちゅ、ぴ、ちゅちゅと鳴く声が――
「もう二度と間違えないように、俺のペニスで、尻の中をぐちゃんぐちゃんにしてあげますね」
綾部の囁きに、かき消された。
End
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