「すまん、意味がわからんわ」

 ふっ、と笑いながらまた顔を俯かせだす。

「そう言うだろうと思った。でもさ、お前いつも聞いてくれるじゃん。だから言ったんだ」

 それはそうと、先ほどから溶け流れているアイスが気になって仕方が無い。指に流れ落ちる甘そうな液体が、そこへこの意識を誘ってくる。

「そうか……おい、アイスが溶けるぞ」

「うん。食べるよ」

 半分溶けかかっているそれを、はむりと大口で食べてゆく姿。動く唇。指はべとべとのまま……拭かないのか。それは、まぁ、いいとして。

「食べながら聞けよ。生きていたら絶対に、些細な事でも楽しいことやいい事があったりするんだ。そんなことはないって言うけれど、それは単にお前に気持ちの余裕が今無くて、気づいていないだけだと思うぞ」

 アイスを頬張りながら、目線だけをこちらへ向けてくる。その目がほんのりと生気を取り戻していっているような気がするのは俺の願望が見せる技なのだろうか。

 真剣に、訴える。

「だからさ、死にたいとか言うなよ。俺は――……お前に生きていて欲しいよ。お前と一緒にいたいから――」

「あ、当たった」

 言葉を遮られ、すっとんきょうな事を言われた。

「何が?」

「アイス。当たった!」

「お、おぅ。本当だな……」

 ――本当に、何なんだこいつ。さっきまで泣いたりしょげたり、ずぅんと重い何かを背負っているようにすら見せてきていたのに……この変わり身の速さ。その、満面に浮かべた笑み。

「お前の言うとおりだ。いいこと、あるんだな! さんきゅ!」

 ――俺は何故、こんな面倒くさい奴を好きになってしまったのだろうか。一気に気分が回復したのだろう。鼻歌をふんふんと垂れ流しながら、アイスの棒を嬉しそうに見つめている。

 ……ああ、ああ……俺こそが、死にたい。いっそ全てをぶち壊して――こいつに好きだとぶちまけて、唇を無理やりこじ開けて、そこにそのアイスの棒を突っ込み口内をぐちゃんぐちゃんにかき回しながら耳元で、お前を犯している想像で毎晩抜いているんだぞ、と囁きそれから、死にたいわ。

 ため息をつきながら、ベンチより立ち上がる。

 まだ指を拭く様子を見せないこいつに、ポケットからハンカチを取り出して放り投げようとして――やめた。

「もう行こうぜ」

 声をかけると、にこにこと頬を上げながらベンチより飛び跳ねる勢いで立ち上がってきた。

「帰る前にさっきの駄菓子屋、寄ろうな」

 ご機嫌で言われたその声が耳にちゅるりと入ってきて俺はまた、ああ……死にたいと、決して口に出さぬ思いへ歯軋りをしたのだった。



end
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