****

 ――今日もいないものとされる。

 ついに椅子どころか、机までが無くなって。

 そうなるともう、この場におらなくてもいいような気がしてしまう。

 けれど……安達が。

 何故、肩を震わせるんだ。

 お前のせいなのに。お前が巻き起こしたことなのに。

 何で、その何も無くなった空間を眺め、涙をこぼすんだ。

 ああ、何で。そういえば――

 俺が最後に家へ帰ったのはいつだっただろう。

 記憶があやふやで。

 安達の視線。その熱だけがやけに、はっきりと見える。

 歪んだ顔、その意味は何だ。

 ――俺はあの日、何を聞き逃したのだろう。

 いつまでこうして無視をされ続けるのかわからないけれど。

 でも。こいつが。

 あの日よりいつも、そんな顔を見せてくるのならば――

 ため息を出す。

 仕方が無いから、俺から行動をする。

 そうすれば何かが変わるかもしれない。

 もうこんな空間にいることすら、苦痛で。

 安達の前へ歩く。

 誰もこちらを見ない。

 目の前へ、顔を寄せる。息をふっと、彼の髪へ吐きつけた。

 何故か菊の香りが鼻腔いっぱいに広がってきて――

「お前なんか大嫌いだ」

 満面に笑みを浮かべてそう言うと、安達の顔が益々、歪んだ。



END
{emj_ip_0788} 2015 Nosibanodenko



ノンアダ短編集デザイア目次

サイトTOP



- 74 -

*前次#


ページ:



ALICE+