撫ぜる手の温もり


銀時に手を引かれて辿り着いたのは、銀時の事務所兼自宅である「万事屋銀ちゃん」であった。やっと雨から逃れた二人はすぐに足元に水溜りを作った。「すっげぇー雨だな」げんなりと呟かれた言葉に千春は無言で頷いた。


「あー、もう先風呂入っちゃって。適当に服持ってくから。」
「え!い、いいですよ…!銀さんも濡れてますし!」
「いーって。女が体冷やすとロクな事ないっていうだろ。生理不順なっても銀さん責任とれないし。あ、子作りの機能性については問題ないけど」
「さ、さいてい…!」


真顔でとんでも無い事をはく銀時に半ば無理矢理背中を押され風呂場へと押し込まれた。ここまでされて断るのも気が引けて、部屋の外で連発されるクシャミを聞きながら早く済まそうとぐっしょり濡れた着物に手をかけた。





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「お風呂頂きました〜」


体の底からじんわりと温まり銀時の用意してくれた甚平を着てほくほく気分でリビングに足を踏み入れた千春。すぐに視線に止まったのは、同じく甚平を着た姿でソファに寝そべっている銀時だった。


「銀さん、お風呂ありがとうございます。風邪引いちゃいますから銀さんもあったまって下さい。」


ユサユサと肩を揺さぶりながら声をかけると綴じられた目がうっすらと開きぼんやりした焦点が千春を捉えた。虚ろげな瞳に自分が映されて、ドキリと心臓が高鳴った。何となく、無駄な色気が銀時から放たれている気がする。


「んー…」


ゆるゆると伸ばされた手が、千春の頭を掴んだ。え、と固まる間に徐々にその指が力を込められていく。異常なほど強い握力で、ゾッと背筋が凍った。


「え、ちょ、いた、いたたたたたた!!!痛い!!銀さん!?何するんですか!!??」

「雨ン中わざわざ外出してた罰だコノヤロー。風呂入ってくっからババアに電話しとけよ」


ギリギリと痛めつけられた手が緩められ最後に優しく撫でられその温もりは離れていった。ぽかん、と呆けてる間に銀時は風呂場へと姿を消した。ババア、とはお華の事だろう。



「…ありがとうございます」


不器用な優しさに、無意識に呟かれた言葉は生憎と銀時に届くことはなかった。

Azalea