向かい合わせのご飯


坂田銀時という男は実に不思議な存在であった。初めて会った時から親切にしてくれたし、感謝は何度頭を下げても足りないくらいだと思っている。それと同時に、何故こうも優しいのかと怖くなる時もある。


    千鳥さんみたいな、」


優しく笑うその裏に、自分に込められた憎しみがあったらどうしようかと。そんな事を考えてしまう自分が嫌だった。人間不信とまではいかないが、少しだけ人との距離に警戒してしまうのは仕方がない事。ずきりと痛む胸を押さえながら、千春はソファから立ち上がる。


「…男の一人暮らしにしては何だか綺麗。」


物が少ないのか、最小限の家具しか置かれていない。インテリアに拘るような人にも見えないから、イメージ通りといえばイメージ通りなのだけれど。せめて何かお礼にご飯でも作ろうかと失礼承知で冷蔵庫を開ければ、中は驚くほど何もない。


「……イチゴ牛乳のストックが半端ない」


甘党なのは日頃の行いで知ってはいたが、お茶の代わりにイチゴ牛乳が並んだ冷蔵庫。糖尿病とか大丈夫なのかと不安を覚えつつ、卵を二つ手に取った。



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「やべぇ。俺の家からめっちゃ美味そうな匂いすんだけど。」
「すみません、勝手に台所使わせていただきました。後でお金は返しますんで。……お腹減ってません?」
「いやそれは別にいーんだけど。すっげぇー腹減ってる。何これよくウチにある食材で作れたな」
「そんな、大袈裟ですよ。」


少ない材料から作れたのは卵焼きにお味噌汁、余り物を詰め合わせた野菜炒め。至ってシンプルな食事だ。それなのにキラキラと子供のような眼差しでこちらを見る銀時に、悪い気はしない。


「「いただきます。」」



重なる声に気恥ずさと、ふんわりした嬉しさが千春の心を包んだ。

Azalea