不安半分、楽しみ半分


それじゃあ、よろしくね。
そんな言葉を置いてお華が江戸を発ったのはつい先ほど。あれよあれよと事が進み、千春の言葉がお華の耳に届いていたかは不明である。結果として、千春はお華が留守中銀時の、万事屋で世話になることになった。
万事屋に泊まることになって前回と違うのは、彼の家には神楽という女の子がいること(前回はもう1人の従業員の家に泊まっていたらしい)と、事前に準備が出来るということ。それだけでも随分と心の余裕が違う。やはり、一応、年頃の娘としては。


「おじゃましまーす…」

「千春!待ってたヨ!!」


万事屋に着いて早々、神楽がとびきりの笑顔で千春を迎える。すっかり懐かれたらしい。悪い気はしないし、千春自身神楽を妹のように可愛がっているつもりである。彼女の話は平凡と呼べる千春の人生とはかけ離れていて実に興味深く、面白かった。最も、平凡だったのはこの世界に来る前の話だが。


「初めまして。いつも銀さんたちがお世話になってます。同じく万事屋で働いている志村新八といいます。」


何て礼儀正しい子なんだろう。それが志村新八に抱いた最初の感情だった。神楽の後ろからやってきた彼は、至って普通の少年だ。今日が初対面の彼だが、神楽や銀時から話は聞いていた。が、どれも想像と違うかった。

やるときはやる子だが普段は冴えなく地味でオタクで眼鏡でツッコミしか存在価値がないだとか。散々な言われように、一瞬職場でいじめでも行ってるのかと思ったくらいだった。それでも彼らの性格や、そう話す顔が随分と穏やかだったり楽しげだったりするので可能性は極めて低そうだったが。


「…こんにちは。佐藤千春です。こちらこそ、2人には良くしてもらってお世話になってます。…新八くん、と呼んでも?」

「勿論です!良かったら楽に話して下さい。」

「何やってんの、おめーら。いつまでも玄関で話してねーで中入れよ。奥様の井戸端会議かー、っての」

「銀さん。お華さんから伝言です。残りのツケはしっかり払わないと内臓売り飛ばすぞ、だそうです。」

「ちょっと、サラッと脅迫文読むのやめてくんない??こぇーよあのババア。老い先短い人生若者に捧げちまえって言っとけ」

「ご自分でどーぞ」


とんでもない言い分である。
この世界にきて、ある程度の罵声や喧嘩はなれてきた。銀時や神楽の場合最早挨拶代わりみたいなものでもある。やれやれとため息をこぼし、千春もようやく万事屋へと足を踏み入れた。


「よろしくお願いします」


さて、どんな4日間になるだろうか。不安半分、ワクワク半分。そんな気持ちで千春は3人に頭を下げるのだった。


Azalea