23時50分就寝


さて、そろそろ寝ましょうか。
そんな空気が流れ出した頃、銀時と千春の頭に再び問題が訪れた。誰が、布団で眠るかである。

神楽に一緒に(押入れの)布団で寝ようと言われたのは丁重にお断りをした。流石に狭すぎる。ならばやはり、ソファで眠るか、銀時の和室で眠るかの二択である。この前はジェントルマンシルバーのおかげで結局布団に寝かされたのだが、尚更今回はソファでと千春は言い張った。しかし銀時とて譲れない。外ではボロクソに言われる事も多いが、一応男。されど侍。というか、カッコつけたいという下心もある。

そんな2人のやり取りを見て、神楽が純粋なる疑問を落とした。

「何でそんなに二人とも布団で寝るの嫌がるアルか?」

「「え」」

「銀ちゃんいつも布団で寝てるのに何でソファで寝たがるアルか?本当は布団じゃなくてベッド派だったアルか?」

「いや、別にそういう訳じゃねーけど」

「千春も何でそんなに嫌がるアル。銀ちゃんの布団は加齢臭するけどちゃんとお客さん用の布団もあるアルヨ。煎餅布団でもそこそこ寝心地良いネ。」

「ちょっと神楽ちゃーん?さり気なく銀さんの悪口言うのやめてくんなーい!?つーか別に加齢臭しねーから!お前と一緒のシャンプーの匂いしかしねーから!!」

「うっせーよ天パ。一回自分の枕匂ってみるアル。パピーと同じヨ。」


いやいやそんなはずない。え、本当に?本当に俺って加齢臭するの??なんて何も喋っていないのに煩い視線をよこす銀時に、千春は何とも言えず曖昧な笑みで返す。強いていうのなら、甘い匂いがする。どちらにしよ、不快に思ったことは一度もないのだけれど。

しかし問題は別に、銀時から発せられる匂いでも、硬くて薄い煎餅布団ではないのだ。恋人でもない男女2人が、布団を並べて1つの空間に一夜を共に過ごしてもいいのかな、なんて。ロクに恋愛経験のないいい歳した大人2人が悩むわけで。神楽の投げた問いかけに、うんともすんとも言わぬ両者に眠気がピークに近づいて来た神楽もイライラと2人を睨みつけた。


「何で二人は一緒に寝たがらないネ!」

「いや、だから、オメーにはまだ分かんねぇーだろうけど大人の世界には色々あってだな…」

「何が大人の世界ネ!!そんなの銀ちゃんの銀ちゃんが大人しくしてれば丸く収まる話ヨ!!」

「やめてぇええええ!!サラッと下ネタ仕込むのやめてぇえええ!!しかも何も分からない子供の純粋な疑問ですぅって顔して丸々事情分かってんじゃねーか!何だよ銀ちゃんの銀ちゃんって!」

「不安なら私が真ん中で川の字に寝ればいいネ。私も千春と寝れて一石二鳥ヨ!」


分かっているのか、分かっていないのか。とんでもない爆弾を落とす神楽に銀時も食ってかかる。そりゃあ、銀時だって理性がないわけがない。無理やり襲おうなんて思わないし、猿でもあるまい盛ったりだってしない(つもりである)。けど、なんか、こう…。妙な背徳感のようなものを感じるのは、お互いがお互いに何も感じてないわけではないからなのか。

名案だと言わんばかりに千春に抱きつく神楽を受け止めて、千春もこれ以上断れないと悟った。別に銀時の事をロリコンだとか変態だとか思ってるわけではないけれど、果たして神楽が真ん中に寝ることは正解なのかどうかこの際考えない事にして。


「銀さん、もういいですよ。一緒に寝ましょう?」

「あ、今のもう一回お願いします。」

「何発情してるアルかクソ天パ」



その日、結局真ん中に眠る神楽の激しい寝相のせいで、大人2人が爆睡出来ることは無かったのだった。


Azalea