熱の下がった日の朝
お華が帰ってくる前日、千春は漸く熱を下げ元気を取り戻した。日頃の疲れがついでだと言わんばかりに顔を出し、ただの風邪にしては随分と長引いてしまった。
人の家にお世話になっておきながら、熱まで出して看病してもらうだなんて。申し訳なさでいっぱいの千春は最後だから、と万事屋の掃除を朝から行い、お昼ご飯に手の込んだ料理を銀時達に振る舞った。熱がぶり返すから、と慌てて止めようとする新八をするりするりと交わしながら、ふと、朝から一度も銀時と話してない事に気付いた。
「新八くん、銀さんは?」
「あれ?さっきまでそこにいたんですけど。」
「そういえば銀ちゃん、千春が倒れてから様子がおかしいネ。思春期のガキみたいにゴソゴソヒソヒソシコシコしてたアルヨ。」
「全く。あの天パ、お客さんが来てるってのに何してるんだか。」
やれやれと合わせて首を振る2人は息ぴったりで、少し銀時を不憫に思いながらも神楽の言葉に引っかかる。何となく、熱に浮かされながら銀時の顔がチラついたような気もするが、ハッキリとした記憶がないのだ。
意識がハッキリしてからは、常に神楽がべったりとくっついていたからか、同じ空間にいていながら銀時とまともに目を合わせたり会話をした記憶がない。避けられている、といえば大袈裟になる気もして、もしかしたら知らぬ間に失礼な事をしたのかもしれない。
「もしかして、私がずっと和室占領しちゃったから怒ってるのかな」
「いやー、でも千春さんが寝てるから近づくなって言ってたのも銀さんですし…」
「そんなみみっちぃ事でへそ曲げるような男、ゴキブリ以下ヨ」
「まあ、確かに銀さんは心も狭くて意地汚くてケチ臭い大人ですけど、そんな事で怒るような人でもないですよ。」
「新八くん、それ褒めてるのか貶してるのか分かんないよ…」
仮にも歳上。
仮にも上司。
相変わらずの万事屋の不思議な関係に苦笑しながら、それもそうかと思いなおす。しかしどっちにしろ万事屋に宿泊するのは今日が最後なのだからと、銀時にまともにお礼を言えてない現状が気になった。
気にするなと声を揃える2人を説得し、千春は銀時を探しに外に出る事にした。付いて行こうかと申し出る神楽を振り切るのは、少しばかり苦労したが、ずっとつきっきりだったのだ。外で思い切り遊んできて欲しい。その分美味しいご飯を作っておくから、と言えば飛び跳ねるように喜んで外に飛び出して行った。
夕飯の買い物ついでに銀時を探してくるね、と新八に伝え千春は随分と慣れた町並みを歩き出す。
銀時はどこに居るだろう。
会ったらなんて言おう。
寝室を借りてごめんなさい。
泊めてくれてありがとう。
看病してくれてありがとう。
ーーーわたしを見つけてくれて
「ーーーあれ?」
なんか、熱の向こうの記憶を思い出した様な気がした。