歯車は動き出す

興味がない。
その言葉に尽きる私たちの世界。

私と、真白。

それだけでいい。
それだけがいい。

何かを得て失うくらいなら、最初からそんなものなければいい。




***

side.千尋



「「すみませーん。パフェ追加でお願いしまーす。」」
「あー、ちょっとお譲さん?おじさんそんなにお金もってないんだけどなー?」
「は?奢るって言ったのおじさんなのに?有言実行できないんだ…。幻滅」
「こら、どうみてもまともに働いてなさそうなんだから、お金なんて持ってるわけないでしょ?そんなこと言わないの。」
「…何この追い打ち。次元、パス」
「…断る」


誘拐された車の中でご飯でも食べて話さないか、と誘われ頷いたのは私たち。
自分でも警戒心のないこの態度はどうかとも思ったけど、タダでご飯が食べれるならそれに越したことはない。育ち盛りが肉まん一つで満足なんてできるはずがなかったのだ。

第一、どうにかするならそのままどこかへ連れて行かれただろうし、不本意ではあるけど一応助けられたみたいだし。怪しいけど、さっきの黒づくめのおじさん達よりは安全そうだ。その訳のわからない集団に追いかけられなきゃいけない理由も知りたかった。


「…で、何で私たち攫ったの?」


ご飯もデザートもこれでもかってくらい食べたあと、財布を見ながらブツブツ呟いてる派手な方のおじさんに問いかける。おじさんは演技かかった涙目の顔を上げて、目があった瞬間コロリと表情を変えてニヤニヤと口元を緩めた。…やだ、きもい。


「人聞き悪いなぁー。助けてあげたんじゃないの」
「大声で叫んでもいい?」
「わーっと!!ごめんごめん!ちゃんと話すから!!」


じとっとした目で見ると慌てたように手を振るおじさん。そういやまだ互いに名乗ってもいない気がする。まあ、興味もないんだけど。(真白に至っては飽きたのか目がとろん、と眠たげだ。)(ズルイ、私もちょっとお腹いっぱいで眠いのに)


「ご飯でも食べながら、って思ったんだけどよォ、やっぱ場所変えない?な〜んかさっきから他人の目が痛いんだよねぇ〜」
「まあ、ハタから見れば援交っぽいもんね」
「けっ。最近の世の中ってぇのは腐れ切ってんな」
「おじさんには言われたくないと思う。」
「どういう意味だ」


真顔で即答すると、ムスッとした顔で返される。目深く被った黒い帽子黒いスーツ鬱陶しい髭にひょろりとした体型。そりゃあ、普通の健全な大人には見えないと思うんだけど。


「おじさん達鏡見た事あるの?怪しさを絵に描いたような人なのに。」
「ね。自己主張激しいし髭は鬱陶しいしどう見てもまともな職業じゃなさそうだもんね。」
「オイ、今の髭関係あるか?」
「だーっ!分かった分かった!名乗ればいいんでしょー!」


「まったくもー!」と顔を赤くしながら派手なおじさんが髭のおじさんとの間に割って入って来た。「次元も子供相手にムキんなんなよ」「なってねーよ!」やれやれ、と派手なおじさんがわざとらしくため息をついて、髭のおじさんが噛み付いていた。怒りっぽいなあ。


ごほん、と空気を変えるようにおじさんとがわざとらしい咳払いをする。何となく、怖くなって真白の手を握った。何でだろう。少しだけ、胸騒ぎがした。


「俺様はルパ〜ン三世!世紀の大泥棒ってわけよ。んで、こっちは相棒の次元だ。」
「ま、まともな職業じゃねぇっつーのは当りだけどな」


ルパン三世。
いくら私たちが世間に疎くても、その存在ぐらいは知ってる。日本は同じニューを何度だって繰り返すから。

世界の大泥棒。神出鬼没。狙った獲物は逃さない。そんなキャッチフレーズが延々テレビで流れていたのを、つい最近も見た気がする。

有名人だ。あまり日本で盗みをしているイメージは無かったけれど、何だってそんな大犯罪者が目の前にいるのか。嫌な予感しかしない。


「……ルパン三世」


どうか、彼の『仕事』に私たちが関わっていませんように。