嘘つきは泥棒の始まり


side.千尋


ルパンが名乗り、数秒の沈黙が降りた。嫌そうな顔を隠すことなく、(隠す必要もない。)(相手は泥棒だし)できるだけ動揺を読み取られないようにただルパンを睨んだ。


「その泥棒さんが何か用?」

「お宝なんて持ってないよ、私たち。」

「あってもあげないけどね」

「ね」

「いや、うん…。まあ今回はお譲ちゃんたち自身がお宝みたいなもんなんだけどねぇ」

「「・・・」」

「おいルパン。虫けら見る目だぞ、こいつら」

「もー俺やだ」


にやにやと笑うルパンに最大限の嫌悪感を出して睨むと、がっくりと机に項垂れた。
私たちだってやだよ、この状況。


いつの間にか時間も遅くなってきたみたいで、ファミレスの外は暗くなってきてる。
そんな時間帯におじさん二人と女子高生二人。

さっきルパンが言っていたのは気にしすぎでもなくて、不躾な視線は私たちも感じていた。親子でもましてや友達にも見えないであろう私たち。そりゃ、他人からすれば気になるのかもしれないけれど。凄く、不愉快。


「……、?」


他人からの視線に苛々として、何気なく窓の外を見た。そこでふと視界に映るものに気をとられる。未だに机に伏せていじけるルパンに声をかけた。


「ねールパン三世って有名なんでしょ?」

「お!やっと俺様に興味持ってくれた?そうそうもう超有名の超々人気者!」

「じゃあ警察にも追われてるんだ」

「まあー熱烈的なファンが一人いたりすっかなあ」

「じゃあさ、あの人ってルパンのファン?それとも警察?」

「え」


ついっと私と真白が同時に窓の外を指さす。ルパンと次元が一緒に首を回すと、「「げ」」と心底めんどくさそうな声を出した。


窓の外には何故かキラキラと目を輝かしたおじさんが一人、手錠を振り回しながら走って近づいてきている。なんていうか、キャラが濃いそうな人だ。


口を動かしてるのを読み取ると、「ルパ〜ン!逮捕だ〜!!」と叫んでいる。……ような気がする。


「凄いね」

「大人気だ」

「とっつぁんってばこんなとこにまで御苦労なこって」

「どうする、ルパン」

「しょーがねぇ…」


あと数歩でとっつぁんと呼ばれたおじさんが店に入ろうとしている。
何をするでなく成り行きを見守っていた私たちは、不意に体が浮いた。



「「・・・!」」


苦虫を噛み潰したような顔をした次元とルパンが私たちを抱えたまま出口へと走り出したのだ。寄せられていた視線はいよいよ好奇のものに変わっていく。超絶不愉快だ!


「へ、んたい!」

「離してよ!」


流石に予想外すぎる行動に、焦って逃げようとするが大の大人の男に力で敵うはずもない。
バタバタと暴れるが全く意味がなかった。(でも握った拳がルパンの頭に当たってちょっと良い音がした)


そうこうしてる間に“とっつぁん”が店の中に入ってきて丁度出入り口で鉢合わせた。
彼の扉を開けての第一声が「ルパン!逮捕だぁ〜!!」だったのにちょっと苛っとした。(でもさっきの読みは当たっていたらしい。)(…どうでもいいか)


「んあ?ルパン、誰だその子らは。…まさか新しい仲間か!?」

「…ねぇ千尋。大人ってバカばっかなのかな」

「こら、大人が皆馬鹿ってわけじゃないでしょ。たまたまこの人たちが頭の可笑しい人たちなの」

「…次元、俺今回ちょっとくじけそう」

「諦めろルパン。こういう奴らだ」


あまりに素っ頓狂なことを言い出すおじさんに真白が苛々とした表情で問いかける。
淡々と返す私に、直ぐ近くにあるルパンの口からため息が零れてた。

何気に次元が失礼なことを言っていたけど、今はそれどころでもない。
おじさんが逮捕と叫んでるからには、警察なんだろう。
早く助けろ。そういう思いを込めておじさんを睨む。


が、それよりも早くルパンが動いた。



「じゃあな、とっつぁん!」

「、は?」

「待て、ルパンー!!」


ひらひらと余裕の笑みでおじさんに手を振ったルパンはポケットから怪しげな丸いものを取り出した。
それを思いっきり地面に叩きつけると、レストランの中は一気に赤い煙に包まれあちこちから悲鳴が上がった。


「!」

「くっそー、ルパ〜ン!煙幕とは卑怯だぞー!」

「まあまあそこはご愛敬ってことで!」

「お、五ェ門の迎えも来てるぜ」

「さっすが五ェ門ちゃあん!」


頭の上で交わされる会話に、私と真白は入ることができない。
煙で何も見えない中、ルパンと次元は迷うことなく足を進めている。


数秒後、視界が開けた時にはレストランの外で、目の前には侍みたいな古風な格好をした男と黄色いボロボロの車が待機していた。



「…やっぱ誘拐だ」


ぼそりと呟いた真白の言葉に、今度こそ反論する者はいなかった。