終止符は打たれた。


私と真白が10歳の時、大好きだったおじいちゃんが死んだ。

おじいちゃんはバルドー家というマフィアのボスをしていて、お母さんはそんな家が嫌で若い頃に殆ど駆け落ちみたいに家を飛び出したと言っていた。

けれど状況はコロコロ変わり、5歳になった頃、私たちはおじいちゃんに預けられ殆ど両親の顔を見る事が無くなった。

寂しいね、とおじいちゃんがよく頭を撫でてくれたの覚えている。
私は真白さえいればそれで十分だったから、寂しくはなかった。

私たちを押しつけられて迷惑だったはずなのに、おじいちゃんはいつも優しく私たちと遊んでくれたから。
だから別に、「お母さん」と「お父さん」がいなくたって対して悲しくも寂しくもなかったの。






***

side.千尋



物知りで優しいおじいちゃんは私たちの誇りで、とっても大好きだった。
だからおじいちゃんが亡くなった時、私たちはあまりにもショックで悲しくて、おじいちゃんの存在を忘れようと話題に出さなくなっていた。

それが今、全く知らないおじさんから話題を振られるなんて。

「…なんで、」

名前を知ってるの、とか。
おじいちゃんのことを知ってるの、とか。

色々疑問が浮かんできたけど、上手く言葉にできなかった。
ぎゅうっと握りしめられた右手が、真白も同じ気持ちなんだって思わせた。


「アラン・バルドー。25という若さで家を引き継ぎバルドー家の当主となった人物。バルドー家はフランスで名を馳せる権力のあるマフィアで多くの伝説も残っている。…例えばそう、天使の涙…とかな」

「天使の涙?」

「そう。マリー・アントワネットが義妹、エリザベートに遺書と共に送ったと言われる涙の形をしたダイヤのネックレスさ。その儚げな輝きは見るものを魅了し“天使の涙”と言われるようになった。そのネックレスはロベスピエールの手によって世間から姿を消したと言われているが…」


突然始まった歴史の授業のような話。何故おじいちゃんの話からそんな話になるのか。
訝しげな顔をした私に気づいてか、後半は少し早口になって話を進めるルパン。
一旦話を区切り、まっすぐに私たちを見たまま目を光らせにやりと口元を緩めた。


「その“天使の涙”は君たちの祖父、つまりバルドー家に代々受け継がれてきたと言われてる、ってわけなのよ!」


まるで新しい玩具を見つけたみたいに目をキラキラにさせて笑うルパンに、私と真白は無言で席を立った。

冗談じゃない。
そんなの、展開が読めすぎて何も面白くなんてない。

彼は泥棒で、
祖父はお金持ちで、
歴史的に有名な宝が祖父のもので

ここまで分かって私たちが巻き込まれない保証が、全くもって見当たらない。

突然立ち上がった私たちをポカン、と見上げるルパンに私は思いっきり冷めた目で見下ろした。


「「さようなら」」



どんなに好きな人の思い出だって、生きていないのなら関わりたくなんてない。