物語は明日から始まる



「ここがアジトか?」

そう言って次元が見上げる先には、ボロボロの古ぼけたアパートのような建物。
確かに周りには全くと言っていいほど人も少なく隠れアジトには最適かも知れない。

けれど、あまりにも安っぽくないだろうか。


「なーに次元。文句でもあんのか?」

「別にいいけどよ、また固いベットでの生活かと思うと先が思いやられるぜ」


ロジーと別れた後、今回の獲物の鍵が日本にあると分かりついさっき日本に来たばかりの二人。

その間も追われる身故(というか一部熱狂的な警察官一人のせいで)満足に休む間もなく飛行機から固いベットの生活。正直、うんざりだったりもするわけだ。


「とかいいつつ、いつもソファで寝てるくせによォ」

「まあ、違ぇねェな。」


気が休まることはあまりないし、常に警戒してる方が馴染んでいて落ち着く気もする。
そうすれば、ベットよりもソファが居心地良く感じてしまうのだ。
本心としては、ふかふかの布団が有るベットが一番望ましいのだが。


「ところで五エ門はどうした?」

「さぁ?前は北海道で修業するとか言ってからなあ。」


アジトに足を踏み入れながら、言葉を交わす二人。
常に一緒にいるわけではないので、ぴたりと人数が揃うことはめったにない。

それでもいざというとき頼もしい相棒たちは助けてくれるのだから、全く問題はないのだ。五エ門が修業のため遅れてくるのも、いつものことである。


「で?今回のお宝の鍵ってぇのは本当にここにあんのか?」

「あったりめーよ!俺様の情報力を見くびってもらっちゃあ困るぜ。」

「ほぉー」

「まー、この双子に関しては、ちょーっとややこしいかもしんねぇけどなァ。16歳で2人暮らしだとよ。保護者はなーにしてんのかねぇ」

「…放任主義ってやつか」

「又の名をネグレクト、ともいうってな」


呆れた声を落とす次元に、ルパンがやれやれと首を振る。世も末だねー、なんて大泥棒の口から吐き出されるのだから、本当に世も末である。

その時だった。
丁度窓辺で煙草に火をつける次元の下で、荒々しいエンジン音が建物の前を過ぎたのは。

先ほどまでの静けさが一瞬にして壊れ、何台もの車が騒音と共に駆けていく。

ひょっこりとカーテンの隙間から様子を窺うと、別に警察の来るまでもないようだ。


「たっく。最近の若い奴はマナーがなってねぇな」

「おじさんくせー」

「うっせぇ」


黒い車高級車は一見して堅気のものじゃないように見える。
皆黒いスーツを身にまとい、険しい顔つきだ。

思わず眉間に皺がより悪態もついてしまう。
すかさずルパンのからかいが飛んできたが、特別相手をするほどでもない。


「さーって!明日に備えて寝るとすっかな」


暫く窓を睨む次元のことを横目に、ルパンはのんびりと背筋を伸ばしソファに転がった。全く持って緊張感のない奴である。…別に緊張する場面でもないが。


「…たっく」


そんなルパンにもう一度悪態をつけて、次元も向かいのソファに寝転がった。色々説明不足なのは、明日追々聞くとして。

今は少しでも睡眠を取るべきだ。
…熱烈的なルパンのおっかけは、いつ、どこで、どのタイミングで来るのか予想もできないのだから。