06


「消太さん」
「ん?」
「緑谷くんとオールマイトさんって、血縁者?」
「・・・いや、そんな話は聞いてない」
「縁が深すぎて変な感じ。血縁者じゃないなら、なんだろう」
「見えたのか?」
「それはもう太い縁が」
「あの人は、確かに緑谷を気に入っているようだったが・・・・何かあるのか?」
「どうなんだろうね。仲は良さそうなのは確かだけど、それだけじゃない気がする」

自宅のソファにもたれていると、隣にストンと座った新零が自分にもたれかかった。年々彼女のアイドル時代を知らない生徒が増え、気づかれにくくなるだろうが、引退した今でもファンがいる。爆豪までもというのは驚いたが、人のことは言えない。

今年はオールマイトが教師として来ているせいか、学校周りを報道記者がうろついている。新零が疲れているのはそのせいだろう。引退したとはいえ、いるということを知られれば囲まれるのは避けられない。あの手のやつらの最高の餌にされる。今までも生徒のタレこみでうろついていたこともあったが直接捕まったことはないと言っていた。
アイドル時代、個性未発表について散々メディアに叩かれたのだ。アイドルヒーローがいる中、言い方は悪いが古風な新零の活躍がイレギュラーに見えたのだろう。人を魅了する個性や、声に関する個性、使役系のものなんじゃないかと噂され、それを公表せずに使っていると一部で報じられていた。もちろん、その報道で彼女の人気が揺らぐことはなかったが、それでも個性ではなく、彼女自身の歌声と努力の成果がもたらした人気であるのだから、彼女が良く思うはずがない。
メディア業界で活躍しているにも関わらず、自分と同じメディア嫌い。接点がないと散々言われるが、実際のところそうでもない。

「今年の子は、どう?」
「どうだろうな、今のところは」
「見込み0じゃない?」
「あぁ」
「消太さんに除籍された子が敵側にいっちゃう可能性だってあるんだから・・まぁ、その時点でヒーローになる見込みがないって判断した消太さんが正しいんだけどさ」
「・・・・」
「心配くらいさせてってば」
「わかってる・・ほら、見とけ」

新零に手を差し出せば、両手で包まれる。手でなくともいいらしいが、一番見やすいのは手だと言っていた。
「特別目立つものはないかな」と言いながらも手を放す気はないらしい。

新零の個性は繋だ。物に限った話ではない。仕事上じゃ電気系統に主に使っているが、もれなく生物にも使える。触れたものの縁を糸のような物で視覚し、色によってその感情を把握する。感情は触れたものに準ずるが縁の強さは干渉しあうらしい。だから、たまにこうして彼女の個性で縁を見てもらう。それで新零自身も安心するのなら、最善策だ。まぁ、するつもりはまったくないが、浮気は一発でばれるだろう。
繋がっている相手は実際に視覚できる範囲でなければ特定できず、辿ることは可能らしいが距離を把握できないため難しいらしい。

「消太さんの手は、薄くて大きくてごつごつしてる」
「?」
「今日、爆豪くんの手触ったら分厚く感じたから」
「あいつは、手の発汗が爆発につながるからな」
「そうなんだ。それはまた派手ですね」

まだ放す気はないらしい。昔から、手を握ると安心すると言っていたことを思うと、何かあったんだろうか?

新零の個性について正確に把握している人間は少ない。人が裏に隠している人間関係を視覚できるため、情報収集や裏切者の捜索等に関わる場合に、相手に警戒されないためにと、校長が判断した。それに新零の身を思えば、それが正しい。仮に捜査協力したところで、戦闘能力のない新零は、自己防衛ができない。せめて、新零の個性が自身にも使えるのであれば避けようもあるのだが。そう上手くは行かないものだ。

「何かあったのか?」
「ん?」
「やけに触るだろ」
「あぁ・・・新学期でいろんな子と握手するんだけど、やっぱり消太さんの手が1番好きだなぁって思って」
「・・・・・」
「駄目だった?」
「いや」
「・・・・・わっ」

握られていた手を引いて、やんわりと押し倒して唇を重ねれば、くすぐったいと笑う。生徒に嫉妬するほどガキではないが、こうして笑われると本当に28かと疑いたくなる。自分の妻だというのに、相変わらず人妻には見えず、当時のかわいらしさは未だ健在だ。この未来はあいつらの年頃には予想もできなかった。

「消太さん、妬いた?」
「ガキ相手に妬くか」

やはり疲れているのだろう。「もう寝る?」と俺の顔に手をあてて聞いてくる。聞いている本人の方がよほど眠たそうな顔をしていることには触れず、「あぁ」と返事をして体を起こした。

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