04



消太さんと別れて3日
初恋は叶わないなんて昔歌ったものだ。最初に付き合った人とずっとうまくいく確証なんてどこにもない。それでも、色々思い出して、やっぱり好きだなぁと思ってしまう。今まで自分の前からいなくなる人はたくさんいたが、残念に思ったのは今回が初めてのように思う。それだけ自分が彼のことを思っていたのだろう。

引退を決めてからの2年。正直、周りを見ることも消太さんの事を思う時間もないくらいに忙しかった。残りの2年、精一杯、事務所にもファンの人にも恩返しをするつもりだったのだ。
彼に久しぶりに連絡を取ったとき、不安はあった。その時はその時だ、友人としてよろしくお願いしますでいいと思っていた。でも、消太さんに触れた時、すごく期待した。私が個性を使うことはきっとお見通しだろう、嫌なら避けるし彼が個性使うだろう。
「消太さん、私とお付き合いしてください」再会早々に言ったのは変だっただろうか。焦ったつもりもなかった、顔あげて彼の顔を見たら、考えるより先に言葉が出てきた。


言いたいことは言ったつもりだ
それでも、彼は終わりにしたいと言ったのだから仕方のないことだ
人間関係は難しい、私のことを好きだと言いながら別れ話をするのだ。今まで色々と人間関係を盗み見てきたが、その表裏は理解しきれなかった。それが原因で子供のころは嘘つき呼ばわりされ、大人たちからは遠巻きにされた。・・・原因はそれ以外にもあったけれど。

しかし、あんなに酔っている彼を見たのは初めてだったな・・・。大丈夫だなんて言いながらも、まっすぐ歩けていないし、本人はちゃんと言っているつもりでも呂律は少し怪しかった。・・・酔っぱらいに振られたのは少々癪だが、あれが本音なのだろう。そんなことを思っているとスマホが音を立てた。
ソファに転がりながら消太さんの電話番号が表示されたスマホをしばらく眺めてから耳に当てれば、マイクさんだった。
後悔するなと言ったのに、彼は後悔しているのだろうか。情けない。なんて思っても、やはりまだ彼が好きだ。だが、これ以上、私が言えることはない。

「雪ちゃん・・・重い」

に゛ゃぁと低く鳴いた飼い猫が勢いよくお腹の上に乗って来た。太っているくせに、妙に機敏に動くせいで度々こうして圧し掛かりを受ける。不意打ちなこともあり、かなり苦しい。電話先に変な声が届いていなければいいけれど。

しばらく猫と遊んでから、珈琲を入れてテレビをつけた。
・・・・ん?
ニュース番組に流れる緊急中継の景色をどこかで見たことがある気がすると思った矢先、部屋の窓ガラスが割れて知らない男が入って来た。

ほら、消太さんがいなくたって世の中は理不尽にまみれていて、こうして事件に巻き込まれるのだ

ALICE+