05



あの日、どうやって自宅に戻ったかの記憶があまりない。あの夜道を新零で1人で帰した自分を恨んだが、タクシー代をけちるようなやつではないので、さっさと帰っただろう。俺より金もってるだろ、あいつ。

「・・・・・・じゃ、ねぇよ」

そんなことは、どうでもいい。朝起きて、我に帰って、昨日をやり直したいと思った。
やってしまった。酒の失敗を前から、あのくそ同期に散々からかわれたと言うのに、またやった。新零が途中で止めてきたのは覚えているが、それでも飲んだのだ。それだけ自分の中に何かが溜まっていたのかもしれないが、最悪だ。
酒の勢いで弱気になって、女と別れるなんて笑えない。今なら、まだ戻れるだろうか・・・・別れ際の新零を思い出して手にしたスマホを置いた。どうしたら戻れる。

・・・戻れる
戻りたいのか。また、同じ悩みに嵌るのに。無駄な時間を費やすのか?


あの日の翌日の事を思い出して、自分に腹が立つ。無駄な時間と称した自分を殴ってやりたい。
緊急要請の住所は、あいつのマンションの傍だ。まさかそんなことはないだろう。




ビルの上にいるヴィランの個性は、はっきりしないが、誰も近寄ることができず個性の攻撃も意味をなさないのは見て取れた。マンションのベランダの欄干で様子を窺っているが、人質がいる手前、下手に消すわけにはいかない。敵の個性がバリア系統なのだとすれば、他のヒーローの攻撃中にはこちらは動けない。一度の下に降りるべきか・・・・・・

「いいのかヒーロー?人質がどうなっても。かわいそうになぁ、こんなにかわいいお嬢さんの無残な姿は他の奴には見せたくねぇんだけどなぁ!!!!いいか、俺が本気になればお前ら全員今この場で殺せんだ、死にたくなきゃ手を引け。俺が逃げ切るまで手をだすんじゃねぇよ。無駄な殺しは趣味じゃねぇし、野郎の無残な姿なんざ吐き気がする」

止め損なったヒーローの攻撃が敵の傍を通った。話すために個性を使うのをやめたのか・・・?

「・・・・・・・っ」
大丈夫だ、頭は冴えている。冷静さも失っていない。ヴィランがあいつの体に触れるのも、顔を近づけるのも腹が立つどころの騒ぎではない。だが、今は自分の感情を優先すべきときでないのもわかっている。生徒の若さをどうこう言う自分を笑ってやる、自分もまだまだだ。
さぁ、どう捕まえてやろうか・・・・
覚悟してろよ、変態やろう









風を切る音に目を開けた

「消太さ・・・」
「違うだろ?」
「・・・イレイザーヘッド」

にっと口角が上がるのを見て正解なのだとわかる。どうしてここにいるのだとかそんなことは考えなかった。彼はヒーローなのだから理由なんてそれで十分だ。ゴーグルをかけた彼がまだ遠くを見ていることも髪が上がっていることも、個性を使っている最中だとわかる。戦闘は終わっていない。

私をビルの下の人のいるところへ降ろして、また戻って行った。すぐに駆け寄ってきた警察関係者に保護され、怪我はないかと心配される。手についている血はどうしたのかと言われ、部屋に残したままの雪を思い出す。あの傷では、助からない。男が侵入する際に割った窓ガラスの欠片で深い傷を負ったのだ。・・・私の血ではないことを説明して、血を拭った。

しばらくして周りがざわざわとうるさくなった。無事に捕まったヴィランが警察車両に乗せ運ばれていくのを眺めていると、後ろから少し肩を引かれた。黄色いゴーグルを見上げる。

「怪我は?」
「私は平気」
「どうかしたのか」
「雪は、多分助からないかも」
「・・・・その血、雪のか?」
「うん」
「・・・・・雪の方は俺が見ておく。お前はひとまず警察で事情聴取になるだろうが、大丈夫か?」
「・・・うん。大丈夫・・ありがと」

それだけ話して、いなくなった。ゴーグルはしたままで表情は読めなかった
髪が下りたのは、私から離れてからだった

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