06



警察の検証が始まる前に許可をもらい割れた窓から新零の部屋に入った。被害者の頼みだと言えば、事情が事情なだけにすんなりOKがでた。

「・・・・・」

手を合わせて、布にくるんだ。すでに息はなかった。出血量からしても、騒ぎの間に息を引き取っているだろう。雪は、あいつが引退した後に保健所で貰って来た猫だ。その時すでに推定8歳と言われていたのだから、もう10歳ぐらいということになる。随分とかわいがっていたのを知っている分、つらいものがある。部屋の隅にある、あいつが拾ってきた壊れた電化製品と一緒に置いてある段ボール箱を組み立てて、そっと中に入れて、持ち出せるようにしておいた。前に自分が来たときは修理中だった玩具に花が付いているところを見ると、この数日で修理が終わったのだろう。
室内は派手に割れた窓ガラスが散乱していて、とてもじゃないが今日中に修復は難しい


「終わったか?」
「・・・・うん」
「雪のこと、後でちゃんと弔ってやれよ」
「・・・・・・・・うん・・。さっきは、助けてくれてありがとうございます」

警察から出てきた新零に声をかければ、少し驚いた様子で顔を上げた。死にかけたというのに、特に怯えた様子はない。

「1人で帰れます。すぐそこでタクシー捕まえるから」
「今晩どうするつもりだ」
「ホテルに泊まる」
「・・・・」
「・・・・」
「新零」
「・・・・・・」
「すまなかった」

ぐっと頭を下げれば、新零が驚いたのか短く息を吸ったのがわかる。これ以外に最短ルートはない。

「この前の話をなしにしろとは言わない」
「・・・・・・」
「酒のせいにするつもりもない。俺の弱さが原因だ」
「・・・・・・後悔したんですか」
「あぁ」
「・・・・・」
「あの時、お前は自分のことを足手まといだと言ったが、そんな風に思ったことは一度もない」
「今日、見事に人質になりましたよ。足手まといは事実です。でも私は、消太さんがいなくても事件に巻き込まれた」
「・・・・・」
「一緒です。雪と。私が保健所から貰わなければ雪はもっと長く生きることができたかもしれない。でもそんなことわからないじゃないですか、もしかしたら処分されてしまうのが先だったかもしない」
「・・・そうだな」
「・・・・口を挟んですみません」
「いや、いい」
「・・・・・」
「新零」
「何ですか?消太さん」

声が柔らかくなったのがわかる。名前を呼ばれるだけで、嬉しいとさえ思う。地面を眺めていた目を、一度閉じて、息を吸った。

「勝手なのは、わかっているが」
「?」
「俺と、もう一度・・・いや、今度は結婚を前提に付き合ってほしい」

初めこそ驚いた顔をしていたが、ゆっくりと笑顔に変わっていくのを見て、自分も情けなく笑った

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