黒い扉の前に立って、私は静かなノックを3回繰り返します。
お返事はありませんが、私はドアノブに手を伸ばして、扉の隙間から顔を覗かせました。

「ヴォルデモート、さん? リクです」

中を見ると、執務席に座ったヴォルデモートさんの姿を見つけました。私は控えめに彼を呼んでから、部屋の中に入っていきます。
見るとヴォルデモートさんの周りには沢山の資料が置かれていました。その中央には「リトル・ウィンジング、プリベット通り4番地」の文字があります。私の記憶違いでなければ、この住所にあるのはハリーの自宅だった気がします。

執務席に座るヴォルデモートさんの隣に立って、私は彼を見つめました。ヴォルデモートさんは私が来たことには気付いているようですが、特別何も気にしていないようでした。

「……今度の襲撃の作戦ですか?」
「これ以上ポッターの命を伸ばす必要もないだろう」

答えは簡潔に、私を見ることもなく続けられました。私はむすと頬を膨らませて黙り込みます。
不機嫌そうな雰囲気が彼に伝わったのでしょう。ヴォルデモートさんは、くつくつと喉を鳴らすように笑うと、私の身体を引き寄せて自分の膝の上に乗せました。
これでは私がヴォルデモートさんの顔を見るには後ろを見なくてはいけません。私は頬を膨らませたまま、机に広がる資料を眺めていました。

「不服そうだな」
「ハリーは私のお友達ですもん」
「俺様は?」

ヴォルデモートさんの表情は見えません。彼からも私の表情は見えづらいでしょう。私は浅く微笑みながら言葉を返しました。

「ヴォルデモートさんもお友達ですよ」

答えると、ヴォルデモートさんは深く黙り込みました。
私は少しだけ振り返ってヴォルデモートさんを見ました。彼は何やら思案顔でした。

「何も、言わないんですね」
「……何か言って欲しかったのか?」
「リドルくんだったら絶対に『馬鹿だね』って言うような気がして」
「同意見だ」

ヴォルデモートさんはあっさりとそう言いました。

その声が本当に呆れたような声でしたので、私は再び頬を膨らませて、不満であることを主張します。
ですが、ヴォルデモートさんは同じようにくつくつ笑って誤魔化すだけでした。

私はヴォルデモートさんのお膝の上に乗ったまま、机の上に広がる資料をもう1度見つめました。
そして小さく口を開きます。

「………ヴォルデモートさん、私もこの作戦に一緒に行ってもいいですか?」
「………そうか。やはり馬鹿なのか」

ヴォルデモートさんは深く黙り込んだあと、呆れたように言葉を零しました。
私は彼の膝の上で身体を横にして、ヴォルデモートさんの顔が見えるような体制になり、小首を傾げて苦笑を零しました。

「やっぱり駄目です?」

彼は私がこの屋敷に来てから、危険だからということで私を極力部屋から出さないようにしています。
それなのに、最前線に赴こうとする私を、ヴォルデモートさんはどう思うのでしょう?

ヴォルデモートさんは赤い目を真っ直ぐに私に向けたあと、小さく溜め息をつきました。

「…いや、貴様は自由に行動して構わない。好きにしろ」

答えは意外なものでした。

私は目を輝かせて両手を合わせます。

「本当ですか! ありがとうございます!」

これで、上手くいけば助けることが出来るはずです。必ず、助けるのです。
喜ぶ私を見て、ヴォルデモートさんは何を思ったのか不意に私の耳を引っ張りました。私は悲鳴を上げます。

「痛いです!?」
「……昨日も思ったが、耳元が寂しいな。
 開けろ」

耳を引きながら突然そう言うヴォルデモートさん。
ピアスを開けろという意味なのでしょうが、私は首を左右に振るって彼の手を振りほどいてから両耳を押さえます。突然どうしたのでしょう。

「え!? 嫌ですよ! ピアスだなんて、痛いじゃないですか!」
「子供か。それに痛みはない。
 今回の作戦について来る気なら、開けろ」
「えぇ!?
 何の関係もありませんよね!?」

そして両耳を抑えて悲鳴を上げる私を、ヴォルデモートさんは楽しそうに、尚且つ言葉巧みに説得し始めたのでした。


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