ベッドサイドに置いた椅子に座ったリドルくんは先程からにやにやと、ベッドに腰掛ける私を眺めていました。
それに対して私はそっぽを向けたまま、クスクス笑っているリドルくんの声を聞いています。

私の両耳には高級な宝石で出来た可愛らしいピアスが飾られていました。

私はそっぽを向きながら不服を訴えます。

「ヴォルデモートさんは痛くないって言っていたのに、本当は凄く痛かったですよ!」
「だって『アイツ』に開けてもらったんだろう? わざわざ痛くないように開ける訳がないじゃないか。
 むしろ自分で開けた方が痛みはなかったはずだよ」

リドルくんは笑いながらそう言います。私はむすーと頬を膨らまして違和感のある両耳に軽く手を触れさせました。
ヴォルデモートさんに与えられたピアスはお花をデザインしているようで、確かに可愛らしいのですが、開けられた瞬間の痛みを思い出して、私はきゅうと身を縮こませました。

散々楽しそうにしていたリドルくんは最後にもう1度微笑むと、身体を少し伸ばし、両耳を覆った私の手に軽くキスをしていきました。

「まぁ、なかなか似合ってるよ」

キザなリドルくんの行動ですが、それに最近慣れてしまっている私もいました。
というより、ここで私が恥ずかしがってしまってはリドルくんに全てリードされていってしまうことをわかっていたので、特段反応をしないように心がけていました。

私は微笑んでいるリドルくんをじーっと見つめてから、両耳のピアスや胸元で揺れているペンダントを思いました。表情が少し陰ります。

「……高価な物ばかり与えられて、なんだか申し訳ないです」

それも、ヴォルデモートさんは1つではなく、沢山のものを私に与えてくれるのです。

最初は受け取ることが出来ない、と断り続けていたのですが、そうするとヴォルデモートさんはさらに高価なものを提示してくださるのでした。
ですから最近では断るのもなんだか躊躇ってしまって、戸惑いつつも受け取ってしまってばかりでした。
今では、私の部屋に置かれている宝石箱はとても賑やかになっています。総額を考えると…、恐ろしい額になりそうです。

何かお返しを考えなくてはいけないのですが…。どうしましょう。

困惑顔を浮かべていると、リドルくんはどうでもいいという風に肩をすくめました。

「闇の帝王であるヴォルデモート卿の隣に立つ人間には、それなりの格好をして貰わないといけないからね。
 いいんじゃない? 受け取っておけば」
「でも、貰ってばかりという訳にもいきませんよ」
「でも。特段、リクから欲しいものもない筈さ」

リドルくんの言葉は正論で、私は深く溜め息をつきました。本当にどうしましょう。

「………そういえば治して貰ったんですね」

ふと思い出した私は不意にリドルくんの身体に触れました。その手は先日とは違って透き通ることなく、彼の胸元で止まりました。
リドルくんは私の手を取って微笑みを零します。

「まぁね。この姿でなければ、たいして魔法も使えないからね」
「それに新しい杖も」

首を少し傾けると、腰元に見慣れた杖が収まっているのが見えました。その杖は以前、ヴォルデモートさんが握っていたものと同種な気がしました。

「それ、ヴォルデモートさんの杖ですよね?」
「『僕』の杖さ。昔使っていたということもあってやっぱり使いやすい。
 杖には忠誠心があるからね」
「忠誠心?」

リドルくんの言葉に私は首を傾げます。リドルくんは私を見ながら、さながら先生のように説明をしてくださいました。

「オリバンダー辺りに聞かなかったかい? 『魔法使いが杖を選ぶのではなく、杖が魔法使いを選ぶ』って。
 その杖が認めた魔法使いじゃないと、魔法の効果は上手く反映されない。
 もしリクの杖を、リク以外の術者が、リクの意思と反した使い方をすれば、君の杖は反抗して、十分な結果を術者に与えないだろうね」

小さく頷いて私は自分の杖を取り出し、見つめました。私は未だ他人の杖に触れたことはありません。もし、誰か他の杖を使ったとしたら違和感を覚えるのでしょうか。
リドルくんは杖を見つめている私を確認すると、言葉を続けました。

「もうちょっと詳しく教えてあげるとすると、杖の忠誠心は勝ち取ることが出来るんだ。
 武装解除や、力尽くでの奪取、あとは殺害なんかでね。
 普通は持ち主が変わったとしても、前の持ち主への忠誠心が完全に失われることはない」
「へぇ……。やっぱり杖もただの道具っていうわけじゃないんですね」

私はにっこりと笑って杖を元の位置に戻します。リドルくんも自身の杖をちらりと見たあと、椅子から立ち上がりました。
リドルくんの講義はこれにて終了のようです。私もあわせて立ち上がり、真っ黒いローブを羽織りました。

「じゃ、行こうか」
「はい」

伸ばされたリドルくんの手を握って、私達は部屋から抜けて玄関に向かいます。

玄関には沢山の死喰い人と、その1番後ろにいるヴォルデモートさんの姿が見えました。
これから、たった今から、ハリーを襲撃に行くのです。人数にして30人強。全てが屈強な死喰い人でした。

私とリドルくんはヴォルデモートさんの隣に並びます。リドルくんはヴォルデモートさんを一瞥すらしませんでした。
少し前にいる、フードを被ったレストレンジさんが一瞬だけ私を見ていきました。

ヴォルデモートさんは無言のまま私に向き直って、両手で私のフードを掴み、深くフードを被らせました。

「何処に居るつもりだ?」

その質問に私は困惑した笑みを零します。それは中々に答え辛いものでした。


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