※スネイプ→魔法薬学教師 リク→魔法薬学教師の見習い
ぐったり。言語にして表すならばそれ以上の言葉が見つからないというほど、リクはソファの上に横になりながら、参考書の山で溺れていた。
もぞもぞと時折動く彼女は、今はかろうじて起きているのだけれども、今すぐにでも眠り落ちてしまいそうな状態だった。
「眠るのならば寝室に行きたまえ」
ソファの肘置きの部分、横になったリクの頭の隣に腰掛けたスネイプが、手近な参考書を手に取りながらそう言う。
流れてきた髪の隙間から覗く、眠たそうなリクの目。彼女は緩慢な動きでゆっくりと身体を起こすと、もぞもぞと動き出し、スネイプの身体に顔を埋めて小さな声を紡ぎ出した。
「まだ、寝ちゃ駄目なんです」
今にも眠り落ちそうな声でそう言い、スネイプの身体にしがみつくリク。
スネイプはぐったりとしているリクの頭を甘やかすように撫でたあと、小さく溜息をつきながら呼び寄せ呪文で掛布を手に取る。
そのままリクに掛けようとしたスネイプだったが、リクは誘惑を断ち切るようにスネイプから身体を離した。
そして付箋が沢山付けられた参考書を手に取ってスネイプに差し出した。まだまだ起きてやってしまいたいことが沢山あるのだ。
「わからないところ聞いてもいいですか?」
勉強熱心といえば聞こえはいい、リクの行動にスネイプの苦笑が起こる。スネイプは仕方がないとでも言うように溜息を零したあと、リクの隣にきちんと座り直した。
リクの開く参考書が見やすい場所まで彼女に近づき、本を覗き込む。緑色の付箋が付けられた箇所を開きながら、リクは指で文字を追った。
魔法薬学の教科書に書かれていた矛盾と疑問。浮かんできた疑問を解消するべく、スネイプはすらすらと答えていく。
眠たいながらも必死に理解しようとしているリクは、手元に羽ペンと羊皮紙を取り寄せ、沢山のメモを残していく。
その後も2、3問い返しながらメモを続けるリク。
長い羊皮紙の半分以上が埋まった時、リクの手が急に止まった。ぎゅうと目を閉じて何かを耐えるように肩をすくめているリク。本気で眠たいようだ。
限界だと悟ったスネイプが彼女から参考書を取り上げて、ぱたんと閉じた。
「………なんにせよ、今日はもう終わりだ」
「…はい」
今度は大人しく頷いたリクが、羽ペンも羊皮紙も手放して、猫のようにスネイプに擦り寄った。
「そんな状態で記憶できているのかね」
何処か咎めるような声に、弱った返事がされる。
「羊皮紙を見て思い出すようにします…」
「焦りすぎて倒れられても困るのだが」
声には心配の色が見えて、思わずリクの頬が緩んだ。
リクはかさついた手と自身の手を重ねながら、ピアノを弾くような動きで遊び始める。
「焦ってはいないですよー」
微笑みを零すリクを見つめ、続きを待つスネイプ。リクはスネイプの肩に寄り添いながらにっこりと笑顔を浮かべた。
「楽しいんです。先生に少しでも近づけているみたいで」
リクは幸せそうな笑顔を浮かべた。
「たのしくて、うれしいんです」
ふわふわとした意識の中で確かに笑うリク。それを見つめながらスネイプはリクの身体を支えて、横抱きで持ち上げた。
短い悲鳴が上がるが、彼は全て無視して教室の明かりを最小限に落とす。
「もう寝たまえ」
少し口早にそう言ったスネイプはリクを抱えたまま寝室に向かい、些か乱暴にベッドに下ろす。寝転んだリクだったが、小さな呻き声をあげながらしがみついたまま離れない。
しがみついたままの身体をあやすように数回たたくと、リクは諦めるように力を抜いていった。
「スネイプ先生は?」
「我輩も寝る」
それは満足のいく答えだったのか、ふにゃりと笑みを零すリク。彼女は置かれた枕に頭を沈めた。
無造作に広がるスカートの端。息を吐いたスネイプが伸ばされた足から視線を逸らすと、リクが上半身を急に起こした。
「…着替えなきゃ」
服が皺になってしまうから、とぼそぼそと言いながら、隣に増設されたリクの自室へと移動していくリク。
苦笑を零したスネイプは、自分のベッドに腰掛けながら、自身も着替えはじめた。
「途中で眠らないように」
「頑張りますー」
注意の言葉をかければ、緩く言葉が返ってくる。
それがなんだか無性に愛おしく思えて、スネイプは口元に小さな笑みを浮かべる。そして誤魔化すように咳払いをしたところで、着替え終わったリクが小走り気味に戻ってきた。
彼女はスネイプよりも先にベッドに入っていく。
「ねむーいねまーす」
「どうぞ」
答えながらスネイプはリクの額を撫でる。気持ちよさげに頬を緩ませたリクだったが、次にスネイプの服を引き寄せて眠るように催促する。
催促されるままに横になったスネイプ。リクは腕枕をしてもらい、彼の胸元に顔を擦り寄せて目を閉じる。
目を閉じながら、とろけそうな思考の中で、リクはそれでも考える。
幸せとは、言葉では表すことは難しいのだけれど、今は確かに幸せを感じていて。
それはきっと、彼の腕の中にいるからであって。それが例え、子供の頃に夢見ていたお姫様に恋する王子様には程遠かったとしても。
抱きしめてくれるのは彼じゃなきゃ嫌だし、額を撫でる手は彼のものではないと嫌だし、どれほどの『好き』を伝えても足りないほどに溺れていた。
そんなリクの思考もとろけていく。意識が落ちるその寸前に与えられたキスに、また微笑みを浮かべながら。
吐息がそのうち寝息に代わり、寝息はやがて2人分になった。
(おやすみなさい)
2016/01/09.スネイプ先生、お誕生日おめでとうございます!
ただただいちゃいちゃするお話。