「そうです。1つだけ。
 先程リーマスに確認をとりましたが…」

その時、マクゴナガル先生の目が爛々と光ったかのように思えました。
責めるようなその視線に、スネイプ先生が咄嗟に私から手を離していました。

マクゴナガル先生は真剣な表情で私とスネイプ先生を見つめていました。

「セブルス。忘れてはいけませんよ。
 まだ卒業までは数ヶ月あります。それまでは彼女は学生ですからね?」
「………」

念を押すような言葉にスネイプ先生は深く黙り込んでしまいます。
隣を見るとリーマスさんも真剣な表情をしていたので、私達は口を噤みます。と、マクゴナガル先生の声が私にも飛んできました。

「貴女も自身で気をつけなくてはいけませんよ!」
「え、あ、は、はい!」

マクゴナガル先生は鋭い瞳で私を見つめて、少し声を大きくさせました。
スネイプ先生が苦い顔をしている中、私は肩をすくめてコクコクと何回か頷きました。なんだか恥ずかしい気分です。

「卒業したあとはお互い教師となるんですからね? 公私はっきりした行動をお願いいたしますよ」

注意された私達はちらりと顔を見合わせます。が、先生と目があった私はふにゃりと頬を緩ませてしまいました。なんだか幸せな気分です!
リーマスさんの嬉しそうにも見える苦笑と、マクゴナガル先生の溜息。マクゴナガル先生は席を立ちました。

「…では、私はホグワーツに戻りましょう」
「私も一旦ホグワーツに行ってきます」

今、ホグワーツでは復興活動が行われている筈です。それに私も手伝いに行こうと立ち上がります。

「Ms.」

声をかけて、病室から出ようとするとスネイプ先生が不意に私の手を引きました。
先生からそうしてくださるのは珍しかったので、私は驚きつつもすぐに先生の近くによります。

後ろにいたリーマスさんは呆れたように溜息をつきながらも、私の肩に手をおいて微笑みを浮かべていました。

「病室の外で待ってるね」
「はい」

リーマスさんに笑いかけて、私は先生の傍に戻ります。戻るとスネイプ先生はひとつ悩んだように視線を逸らしてから、ベッドのすぐ横を指し示しました。
そこに私は腰をかけて先生の言葉を待ちます。先生は何かを悩むように言葉を噤んでいました。

「Ms.」

ようやっと零された短い単語に、苦笑を浮かべてしまいます。

「なんです? 先生」

くすぐったい気持ちを抱きながら続きを促すと、スネイプ先生は視線を逸らしたままゆっくりと言葉を続けました。

「…何かあれば置いていこうと思っていた」
「え。でも、さっき!」
「嘘だ」

大きめの声を私にかぶせるように言い放つスネイプ先生。あっさりと返されたそれに私は言葉を失ってしまいます。
先生は私と視線を合わせないままで、彼の横顔はどこか怯えを含んでいました。

「君の将来を潰すことは、我輩には出来ない。絶対に、絶対に」

先生は私の手を握ったまま、私の肩口に頭を寄せました。
目を閉じて、長く息を吐いているスネイプ先生。私は腕を伸ばして、スネイプ先生の頭を抱き寄せます。

「逃れられないと思っていた。だからこそ、あの嘘で…、幸福を味わえた」

小さく言葉を続けているスネイプ先生が私の身体に手を回しました。
私は先生がいつもやってくださるように頭を撫でます。

「それだけでよかった」

長く息を吐きながら私を緩く抱きしめるスネイプ先生は、怖かったと言っている気がして、私も彼の頭を包み込むように抱き締めて唇を寄せます。

「もう嘘はつかないでくださいね」

囁くように言葉を零すと、私をぎゅうと抱き寄せていた先生が身体をしっかりと起こして、逆に私を包み込むように抱きしめました。

「………時と場合によっては」
「だめですー!」

反対にスネイプ先生の腕の中にいることになった私は、ふふふと笑いながら先生を見上げます。先生はばつが悪そうな顔をしていました。
私はその頬をつついてから、今度こそ立ち上がりました。外ではリーマスさんが待ってます。

「じゃあ、行ってきますね」
「…ああ。今度こそきちんと待っていよう」

先生の言葉でどこか不安を覚えていた私も安心します。私が目を離した隙にいなくなってしまっては困りますもん。

立ち上がった私の隣に先生も立ち上がります。きょとんとした私が目線を上げると、頬に手が伸びてきて、そうしてから先程邪魔されてしまったキスの続きをしてくださいました。
触れるだけの優しいキスで幸せに包まれた私は、ふにゃりと微笑みを浮かべます。

今、とっても幸せですよ。と、言葉にしなくてもわかるぐらいに幸せいっぱいの私を、スネイプ先生は小さく微笑みを浮かべながら背中を押し出しました。

「あまり遅いと2人が煩い」
「それもそうですね」

扉の外で待っている筈のリーマスさんとマクゴナガル先生を思って、私はようやく歩き出しました。

…でも、未だ離れるのが名残惜しかったので、スネイプ先生にもう1度ぎゅうと抱きついてから。


(幸せの約束)



「セブルスには言い忘れましたが、」

3人で並んで病院を抜ける途中、マクゴナガル先生がふと話しだしました。

「今年も空いてしまった闇の魔術に対する防衛術の教師ですが、私はシリウスを、と考えております」
「え」
「それは…」

シリウスは晴れて全回復し、スネイプ先生と同じ病室から一刻も早く退院していきました。

私個人としてはシリウスと一緒に働けるようになれば心強いことは心強いのですが、…スネイプ先生とシリウスは未だに仲がいいとは言えませんからね…。

「言い忘れてましたので」

あっさりと言葉を続けるマクゴナガル先生。うーんと一瞬だけ悩んだ私は、すぐに苦笑を零しました。

「私も暫く言い忘れておいてもいいですか?」
「そうだね。言い忘れてしまったのならしょうがないよ」

いずれは言わなくてはいけないのでしょうが、シリウスがいるということで、スネイプ先生がホグワーツで教師を続けないと言いだしたら、とってもとっても困るのです。

苦笑を零した私も新学期が始まるギリギリまで言い忘れることにします。


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