「何か思い出したの?」
私は思い出すことに集中するためにも目を閉じます。思い描いたのはグリフィンドールの剣と壊れた指輪。静かに言葉を紡ぎます。
「…指輪はもう壊れて、ます。ダンブルドア校長先生が壊した筈です。
グリフィンドールの剣で、分霊箱が壊せます。ダンブルドア校長先生はそれで指輪を壊したんです」
「………」
「それと、ロケットももう元の場所には無い筈です。偽物をハリーが持っているんです。偽物だったんです。去年、ハリーとダンブルドア校長先生が偽物のロケットを手にしました」
顔を上げながらそう言うと、リドルくんは悩むように口元に手を当ててから、納得するかのように頷きました。
リドルくんは私が言った言葉を全て信じてくれているように見えました。
「………じゃあ、残っているのは髪飾りとカップとナギニだけか。随分と減ったものだな…。
本物のロケットは盗まれたあと破壊されたのか?」
「まだ…、まだ破壊されてないと思います。でももうすぐロンが破壊してしまいます。ハリー達がこれから本物も手にするんです」
「今回の魔法省襲撃は分霊箱絡み。か。
『アイツ』はまだ気付いていないだろう。分霊箱は安全だと思っているに違いない」
ヴォルデモートさんは過信しているのです。分霊箱について誰にも知られていないと。
ハリーやダンブルドア校長先生が知るはずはないのだと。
実際はハリーが今、分霊箱を探して色んな箇所を探し回っています。ロンとハーマイオニーと協力をして。
時間は掛かってしまうかもしれません。ですが、最終的には今年度の終わり頃には全ての分霊箱がハリーの元に集まるでしょう。そして全ての分霊箱は破壊されるのでしょう。
これはそういう『お話』だったのですから。
私の話を聞きながらリドルくんは深く黙ってしまいます。何事かを深く考えているようでした。私は不安げにリドルくんの顔を見つめ、軽く小首を傾げました。
「……私はどうしたらいいんでしょう?」
「どうもしなくていい。…結局最後にはなるようになるさ」
ふうと息をついた彼は簡潔にそう言うと、両手をポケットに入れて深く座って椅子に背を預けていました。
ヴォルデモートさんの魂の欠片でもある分霊箱が減っているというにも関わらず、余裕綽々といったふうなリドルくんに私は不安と疑問を抱きます。
「リドルくんは怖くないんですか?
リドルくんはリドルくんの行動や意思とは関係なく死んでしまうかもしれないんですよ…?」
こうして会話をしている間にも突然に。彼の心臓は遠く離れた場所にあるのです。
「前は怖かったかもね」
リドルくんは酷く優しい表情をしながら私のことを見つめていました。そして不意に私の頭を優しく撫でてくださいます。大人しく撫でられながら彼を見つめます。
「今は?」
「恐怖よりも焦りの方が勝っている。急に僕が死んだら困る。誰がリクの傍にいる?」
彼の赤い視線は真っ直ぐでした。凛々しいその表情を見つめてから、私は思わずくすくすと笑ってしまいました。
「ふふ。格好いいですね、リドルくん」
「あのさ。これは笑い事じゃないんだけれど?」
むすと表情を変えたリドルくんが怒ったように1度だけ私の耳を掴んで強く引きました。悲鳴を上げつつ耳を抑えると、クスクスと笑ったリドルくんはすぐに手を離してくれました。
「ねぇ、とにかくこの話はもういいよ。そんなに面白いものではないし。
僕は夕食を食べに行きたいんだけど」
リドルくんは飽き飽きした表情で肩をすくめて立ち上がりました。私の前に手を差し出して、私のことを立ち上がらせます。
両耳を抑えたままの私は頬を膨らましつつも、立ち上がってリドルくんに寄り添います。
「結局、リドルくんは食べないじゃないですかー」
「食べる必要がないからね。でも、大広間の雰囲気は嫌いじゃない。
それに、リクにはきちんと食べさせないと」
彼の傍に寄り添うと、リドルくんはぽんぽんと頭を撫でてくださいます。その温かさに頬を緩めながら私達は2人で大広間へと向かいました。