「わぁ、スネイプ先生のおうちです!」
私はきらきらと目を輝かせてスピナーズエンドにあるスネイプ先生の自宅の中を見回していました。
きょろきょろとあっちこっち見ている私に、スネイプ先生は少し呆れた表情をしていました。
「前にも来ただろう」
「ですがそれは、夢の中の出来事でしたから」
私が実際にここに足を踏み入れるのは初めてなのです。大きな本棚からもさらに溢れ出している本達や、無造作に積み上げられた大鍋だって初めてなのです。
スネイプ先生は私の言葉にそれもそうかとひとりごちで、着ていたコートを入口のコート掛けに掛けて、私をお部屋に案内してくださいます。
スネイプ先生の背中を追いかけて、彼が案内したソファに腰をかけます。
ここにいるだけでご機嫌な私は手近にあったクッションを抱き寄せて、はたとあることを思い出します。持ってきていた鞄の中から紙袋を取り出して、それをスネイプ先生へと手渡しました。
「はい、先生。一緒に飲みましょう!」
私から紙袋を受け取ったスネイプ先生は、紙袋に書かれている銘柄を見て、少し驚いたように瞬きをします。
彼が紙袋を開けて取り出したのは、紅茶の葉が入った缶でした。
「いつの間に」
「内緒で買っておいたんです。良い香りがするんですよ」
私が初めてこのお部屋に来る時には、絶対に新しい紅茶を買ってこようと決めていました。だって、私達はそう約束していたのですから。
スネイプ先生はじっと紅茶缶を見つめたあと「少し待っていたまえ」と声をかけて、奥の部屋へと向かいました。
言葉通り大人しく待っていると戻ってきたスネイプ先生が私に紙袋を差し出しました。
きょとんとして紙袋を覗くと何やら小袋が入っています。ひとつ取り出してみるとそれは苺のドライフルーツでした。
その他にもマンゴーだったり林檎だったり。いろんな色のドライフルーツが入っていました。
「ドライフルーツです!」
「以前気に入っていたようだからな」
先生はあまり甘いものを好みません。私のために用意してくださったドライフルーツに嬉しくなります。
スネイプ先生も今日を楽しみにしていてくださってたのかもしれません。
「ふふ。いつの間に。です」
短く笑った私は嬉々として苺のドライフルーツの袋を開けて、ひとつつまみ食いします。それは上品な甘さで私の頬が緩みます。
先生も。と声をかけて、ひとつ取って差し出すと、スネイプ先生も顔を近づけて、ぱくりと食べていきます。
ですが、やはり彼には少し甘すぎるようで、とっても難しい顔をしていました。ふふふとまた私から笑みが零れます。
スネイプ先生のためにも私はドライフルーツと一緒に、あまり甘くない焼き菓子も並べることにします。
少しするとお部屋の中にとっても良い香りが漂っていました。
お皿に盛られたドライフルーツをお茶請けにして、私の隣に座っているスネイプ先生がぽつりと言葉を零しました。
「…特に変化はないものだな」
不意に零された言葉に私はスネイプ先生にこてりと寄り添います。数ヶ月前の私達を思い出して私は問いかけます。
「校長室にいる時と?」
「地下牢教室にいる時とも」
言葉を聞いて私はスネイプ先生を見上げ、少し意地悪に笑いかけます。
「今日は飲み終わっても調合はしませんからねー」
「それは残念」
スネイプ先生も意地悪そうにそう答えます。私はこてりとスネイプ先生の肩に頭を寄せて、幸福感に身を委ねます。
そうです。変わらないのです。
私が生徒ではなく先生になっても。時が経って、日々が過ぎても。
私とスネイプ先生はこうして紅茶でも飲んで。時々意地悪も言われたりなんかして。
「お話しましょうか、先生」
「話すこともないがな」
「ふふ。いつもどおりじゃないですか」
笑うと、はたと気づいた様子のスネイプ先生がほんの少しだけ微笑んでいました。
「それも、そうか」
ゆったりと流れる時間の中、私とスネイプ先生は今まで通りにお茶会を楽しむのでした。
(変わらないこと)