「おっきぃね、ジザリオス」

幼い顔付き体つき。
まだまだ子供なユースがそこにはいた。

3mほどのランドック人のジザリオスが、木の上から見下ろすユースを見上げた。

猫のように木に登り、彼女は寝そべっていた。

ジザリオスはニカと豪快に笑う。

「ヨーカーン殿の娘と噂のユースか。初めましてだな!」
「うん。初めまして」
「ところで何故我輩の名を知っている?」
「……皆が噂してたからよ」

ふとユースの肩に頭を制御管に貫かれた鳥が止まった。

さっとジザリオスが警戒するとともに、他にも異貌のものどもが木の影からユースの回りに集まった。

ギャアギャアと鳴くそれらは確実にユースを守るように集まっている。

そして何十もの異貌のものどもに守られる少女の姿が浮かび上がった。

「『彼等』が、貴方が1番の英雄だと言ってたわ」
「異貌のものどもと会話が出来るのか! さすがヨーカーン殿が連れて来た少女!」

ジザリオスはユースへの警戒をあえて解き、がははと笑いながら木の下に座った。

異貌のものどもの沸く木の下に。
ユースは驚き顔を見せながらも、優しく微笑んだ。

「………大賢者様の言った通り」
「ヨーカーン殿が何と?」
「ジザリオスは馬鹿だって」
「何だそれは! 心外だな! 我輩は博士号も持っているが!」

叫ぶジザリオスにユースがクスクス笑った。そして猫撫で声を上げる。

「ねぇ、英雄は悪役を倒すんじゃあないの?」
「もちろんだ! 英雄的行為で倒し尽くしてやるぞ」

ジザリオスが上を見上げた。
少女の瞳と視線が合う。

少女は今にも泣き出しそうだった。

「じゃあ『お願い』」

そしてジザリオスが立ち上がる。

木から異貌のものどもを引きずり落とし頭を握り脳を潰し眼球を擦り血と内蔵をぶちまけ死を生み出し生み出し。

ユースの回りに深紅を弾きあげた。


†††


「……ありがとう」
「なに! 悪を滅ぼしたまでだ!」
「貴方は何も聞かないのね」
「詰まらぬ話はわからないのでな!」

ユースは回りに異貌のものどもがいなくなったことが清々しいようで、ジザリオスの隣にいた。

「貴方に頼んでよかった。ありがとう」

ニコニコとユースは笑いながら、ジザリオスの大きな背に抱き着いた。

「ジザリくん」
「じ、ジザリ?」
「私の英雄。また悪役がいっぱい来たら倒してね」
「ふはは、任せればよい! 悪に遠慮はいらない、肉片すら残らず消し去ってやろう!」
「頼もしー、ジザリくん」
「……その呼び方は英雄には!」
「じゃあ何?」
「ジザリオン!」
「じゃあジザリくんだね」
「変わってないではないか!」

ユースは楽しそうに笑う。

他にもまわりの異貌のものどもを倒してくれるのはいるが、何も聞かずに気付かない馬鹿はいない。

ユースは笑いながらジザリオスへの小さな罪悪感を感じていた。


(英雄的行為)

ユースは全てを隠しながら

彼の英雄的行為を期待する。


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