大鉈と大鉈が打ち合わされる豪快な音が響いてくる。私はナースに彼らがなんなのかを聞いた。文字の書かれたカルテを読むと「私達の創造主は一緒」とだけ書かれていた。私は首を傾げる。

「どういうこと? 兄弟ってことかしら」
「厳密には違うけれどねぇ」

声がする方に向けば、向かっていった時よりも血塗れになっているウサギが立っていた。
気が付けばどちらの三角頭も大鉈の切っ先を地面に向け、互いに睨み合っているかのように思えた。今までの激しい戦いは止まっていた。

「……終わったの? 和解?」
「キャハハ。お互いちょっとやそっとや死なない。不毛な戦いだよねェ。
 まぁ、黒いセリョールの方が力は上…、」

黙っていればいいのに、一言多いウサギの片耳が消失した。ピンクのウサギが赤に染まり、ウサギの悲鳴が上がった。

そのままウサギを殺しそうな三角頭に手を伸ばし、彼の大鉈の動きを少しだけ止めた。

「待って、三角。もう少し話聞きたいわ」

私の声が聞こえたのか大鉈の切っ先がウサギの胸元で止まる。ゆっくりと引いていった大鉈に、ウサギが小さくキャハと笑う。命の換えがきく彼にとっては生きるも死ぬも大した問題ではないのだろう。

その時、黒い三角頭が少し動き、私のすぐ傍に近付いてきた。警戒しているのか大鉈を持った赤い三角頭が私の前に出てきた。
私は静止するかのように赤い三角頭の背に手を触れさせた。急に触れさせたことで驚いたのか三角頭の肩がビクと震えた。

振り返る三角頭に確認するように、私は彼に問う。

「………もう、襲ってこない?」

聞くと赤い三角頭はしばらく私を見つめた後、次に黒い三角頭を見た。黒い三角頭は微動だにせずに、私か三角頭を見つめ返していた。
赤い三角頭は私をもう一度見て、私の前から立ち退いた。黒い三角頭がもう少し近づいて、私に触れられる位置まで来た。彼は確認するかのように私を見つめている。

「教団の奴らかと思ったんだって」

横からウサギがそう解説する。黒い三角頭は短く頷いて私の前にしゃがみこんだ。私と視線を合わせているのだろうか。
私は黒い三角からあまり視線をそらさないまま、再びウサギに問う。

「教団?」
「人間さ」
「私の他にも人がいるの?」
「人間だけれど人じゃない」
「……意味がわからない」

私の理解に及びそうにない話だ。

理解する気がないのかもしれないけれど。

その時黒い三角頭が立ち上がり、背を向けた。
ゆっくりと扉に向かって歩き出したところを見ると何処かへと帰る気らしい。

特段声を掛けることもないので、私はそのまま黒い三角頭を見送る。黒い三角頭が出て行ったところで赤い頭が私の身体に触れて、ゆっくりと持ち上げた。足に走る痛みに顔をしかめていると、三角頭が一切の動きを止めて私を見ていた。

少しだけ足の痛みが引いてきたところで、三角の金属の頭に触れる。コツコツと指先で叩いて、彼の意識を自身に向ける。

「…ん、大丈夫。きっと痛みはもう無くならないでしょうし…我慢するわ。
 ありがとう」

お礼を言うと三角頭はぴたりと一切の動きを止めて微動だにしなくなった。様子のおかしい三角を怪訝に思いつつ、私は彼の肩に乗ったままウサギを見下ろす。

「ねぇ、ウサギ。時々こうやって三角が固まるんだけど…」
「キャハハハ! …グェッ」

動きの固まっていた三角頭がウサギの声に反応したかと思うと、突然動き出してウサギの身体を上下真っ二つに叩き切られた。
床に広がる赤い液体を三角頭の靴が踏みしめている。漂ってくる生臭さに私は顔を顰めた。

もうなんなんだ。


◆テオフィリン

茶葉に含まれる苦味成分である。アルカロイドの一種で、キサンチン誘導体に分類される。
また医薬品として、気管支喘息や慢性気管支炎などの呼吸器系疾患の治療に用いられる。
茶葉に含まれる量は、医薬品として用いられる量に比べて非常に少ない。

強力な気管支拡張作用があり、喘息や気管支炎の治療薬として使われている。
しかしその際に、副作用で痙攣を起こすことがあり問題になっている。


(Wikipediaより引用)


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