そうして、たどり着いたショッピングセンターは変わらず血と錆に満ちていた。汚い色と匂いが私を包む。相も変わらず人影は全く見当たらない。
何かを買おうとか思っていた訳ではないが、買えるものはなさそうだ。あったとしても、お金も持ってないし、第一、売り子もいないだろうから、そもそもショッピングが成立するはずはなかった。

ぼんやりと景色を眺めていると、その時乱雑に散らかった商品の中にあのウサギのぬいぐるみが鎮座していて、私は彼の肩の上で思わず三角頭に擦り寄った。どうにもあのウサギだけは嫌だ。
私が身を寄せたことに驚いたのか、少しだけ肩を震わせた三角頭だったが、私の視線が真っ直ぐウサギに向いているのだと知ると、機敏な動きで私が見ていたウサギに大鉈を向けた。

大鉈の先で数回ウサギをつつくと、やはりウサギはもぞもぞと動き出して固まった笑みを私達に向けた。

「やぁ、セニョリータ。もうお外に出ても大丈夫なのぉ?」
「お陰様で」

盛大の皮肉を込めてそう言葉を返すとウサギのぬいぐるみはキャハハと甲高く笑って三角頭の大鉈の先から逃れ、三角頭の足元に着地した。
全長30cm程のぬいぐるみが三角頭の足元でたどたどしく歩いている。嫌悪に表情をしかめさせていると、私を支えていた三角頭の手が2回ほどぽんぽんと優しく動いた。あやしているつもりなのだろうか。子供扱いされているようでその手の動きはあまり好きではなかった。

三角頭の動きを見ていたウサギが笑い声を急に止め、じとと三角頭を睨んでいた。三角頭もその頭の先をウサギに向けている。急になんだ。
ウサギは血塗れの手で口元を隠しながら可愛らしい声で三角頭に語りかけはじめた。

「いけないんだー、いけないんだー、レッドピラミッドシンング。
 これ以上はいけないって…、なぁ。おめーもわかってるんだろォ?」

ウサギが何かよくわからない言葉を三角頭に投げかけているが、私には意味がわからない。三角頭は変わらず言葉を発しないまま、緩慢な動きで大鉈を振り上げていく。
肩に乗せられたままの私は彼の身体の傾きに耐えようと、彼の赤い頭に腕を回す。大鉈が振り上がる中、ウサギは耳障りな声でキャハハ、キャハハと笑っていた。

「警告はしたからね」

ウサギの言葉と同時に大鉈が振り下ろされ、真っ二つになったウサギのぬいぐるみ。身体の大きさに似合わないほどの多量の血が溢れ出て、三角頭の足元に血の水溜まりを作っていく。

ウサギが大人しくなったことに不満はないが、急に大鉈を使った三角頭に少しだけ恐怖を抱く。
じとと彼を見つめていると、彼は三角頭の先を少しだけ私に向けてまた前を向いて歩きだした。

彼は再び私をあやすかのように私を支える手を動かしていた。

「………ねぇ、あっちには何があるの?」

私は何も聞かなかったように問う。三角頭は答えを知らせるために私が指さした方へと歩き出す。
三角頭はウサギを真っ二つにしたことを忘れてたかのように思える。…きっとそれでいい。

ここら辺の化け物達を倒すことが出来る三角頭が機嫌を損ねたら、弱い私の命はきっとないのだから。

彼の機嫌を取るつもりはないけれど、彼が苛々としているよりかは幾分心臓が楽になるのだろう。


◆コカイン

粘膜の麻酔に効力があり、局所麻酔薬として用いられる。

一般に白い粉末状で、コカインを摂取した場合、中枢神経興奮作用によって快感を得て、一時的に爽快な気分になることがある。
また、コカインは薬物依存症の原因になる。コカインによる依存症は極めて強い部類に含まれるが、主に精神依存であり、肉体依存は弱いと言われる。

このコカインの中枢作用は覚醒剤(アンフェタミン類)と類似している。ただし、コカインは作用が強烈で短時間作用し、覚醒剤の作用はコカインより弱いが長時間作用する。尚、コカイン中毒では対症療法により対処する。

アメリカやヨーロッパの各国で麻薬として、所持や使用が規制されている薬物の1つである。日本でも麻薬及び向精神薬取締法で規制対象になっている麻薬である。


(Wikipediaより引用)


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