「先輩、」
「なぁに…?」
「好きです、」

それから、彼は、暇さえあれば僕の傍にいて、僕に愛を囁きました。

「先輩が好きです、」

男同志なのに。
彼は、いつも僕に愛を囁いてくれて。僕の傍にいてくれました。

彼の優しい顔を見るたびに、胸がぎゅっとしました。
嬉しくて、でも切ない…そして苦しい…恋の、痛み。
恋愛の病。


「先輩、」
「朔夜君、」
「俺、先輩が好きすぎて、どうにかなりそう…」
「馬鹿…」

どうにかなりそうなのは、僕のほうです。
幸せそうに微笑む彼。その彼の笑顔を見るだけで、ほわっとした暖かなものが胸に流れる僕。
彼と過ごす毎日はとても、楽しくて。幸せで。
だから…

「身の程知らず」
「早く別れろ」
「淫乱、」

何を言われても耐えられた気がします。そう…誰になにをされても。
僕には彼がいるから…と思えたのです。



彼と付き合うようになって、彼の事を慕う人間から沢山の嫌がらせを受けました。

彼ら曰く、僕みたいな何のとりえもない人間が彼と付き合っている、それどころか彼の隣にいること自体許せないらしいです。彼のとなりを僕のようなさえない人間が独占しているわけですから。


確かに、可愛い子をことごとく振ってきた彼です。今更、僕みたいな人間と付き合うなど、周りは許せなかったのでしょう。
彼はけして周りに僕のことを言いふらしたりはしなかったのですが、人の噂って回るのは早いものです。
僕と朔夜くんが付き合っていることは、いつの間にか学校内に知られていて、僕は彼を慕う人から虐めを受けていました。

僕に対するいじめは日に日に強くなっていきました。
見えないところに、沢山傷をつけられました。
次第に笑顔でいるのも辛くなってきました。
彼が、僕の傍にいるのに。
必死に笑顔を作ろうとしましたが、上手くいきません。
そんな僕を見て、彼も次第に笑顔がなくなっていきました。

全ては、ここから。
僕が耐えられなかったことがいけなかったのです。


「最近…元気ないですね…」
「そう…?」
「なにか、あるんじゃ」
「なにも、ないよ…」

虐めで日に日に傷心していく僕に、彼は心配し、大丈夫か、と声をかけます。
けれど…、

「具合、悪いなら…、」
「大丈夫、だよ」

僕は笑って、大丈夫、っといってしまいます。
僕は彼に虐められていると相談できませんでした。

僕は彼より年上だし、何より、自分でどうにかしなければ彼は呆れて僕の元から去ってしまうと思ったからです。

年上なのに情けない…そんな姿を見せたくなかったのでした。
僕の囁かなプライド。
それに相談したら、彼は自分が悪いと思い、僕の為に僕の元から離れる気もしていたから。
自分のせいで僕が傷ついていると知れば、彼は、自分を責めて僕から離れます。
それが嫌で僕は彼には言えませんでした。

いつか、この状態が終わる。いつかいじめは終わる。

僕は、それを信じ、彼には必死で隠していました。
いつか全てが好転すると信じて。
一人で問題を抱えていたのです。
彼に相談もせずに。



僕にとって悪夢は突然やってきました。
それは、3年に進級し、図書委員で新しく入った本を整理し、遅くなった日の事でした。
いつも僕は彼と一緒に下校していたのですが、その日は遅くなりそうなので、先に帰っておいてほしい、と頼んでいました。

本の入荷チェックだけだったのにもかかわらず、人で不足と本の量とでかなりの時間がかかってしまいました。
図書委員の業務が終わるころ、辺りはすっかり薄暗くなり、時刻は7時を回っていました。
学校の周りには雑木林があって、この時間になると、学校の照明以外は明かりがないので、とても暗いです。

運動部は既に帰っているのか、体育館の照明は消され、辺りはまっくらでした。
僕の他の図書委員も既に帰っており、一番最後まで残ったのは委員長を勤めていた僕一人だけでした。


暗い暗闇に恐怖を感じながら、僕は早く帰ろうと図書室を出ます。
外はもう夏に近いのに寒くて、冷たい風が吹いていました。
足早に校内を歩く僕。そんな僕の前に、突然人影が立ちふさがりました。


「みぃつけた…」

見知らぬ、柄の悪い男数名。
彼らは僕に近づいて…、僕の手を取ると人けのない校舎裏につれていきました。
突然のことに呆然としている僕を、そのまま地面に組み引くと、僕のブレザーの上をとりシャツを破いて、素肌を撫で回します。

生ぬるい手が、何本も僕の身体を撫でるように這いました。

「やめ…やぁ…」
「っく…大人しくしろって…、」

パン…。
抵抗すればするほど、殴られ、蹴られる。彼らは僕に一斉に暴行を加えました。

「―っ!」

痛みでうずくまる僕。
彼らはそんな僕を笑い、…数人掛かりで僕の身体をなめ回しました。

舌で、手で。
何度も、何度も。


「―やめて!」
「やめて、だってよ、泣いちゃって可愛いー」
「いや…」

泣き出してしまった僕を彼らはせせら笑い、どんどん卑猥な行為をしていきます。
無理やりの…性行為、を…。
裸に向かれた僕は、まるで草食動物のように、彼らの前で震えることしかできません。


「っー…知ってるか?男同士だと、ここ使うんだぜ?この様子じゃ初物だろ?せいぜい可愛がってやるよ、」

お尻にぬるぬる、としたものを塗りこまれます。
液体…いや、ゼリー状のものでしょうか。
冷たくて…ぬとぬとしています。
気持ち悪い。
気持ち悪い。

「誰か…誰か助け…んんんっ」

叫んだ僕を、襲っていた男の一人が口を塞ぎます。
唇を重ねて。僕の声は、見知らぬ男の口の中へと消えました。

キス。
なんで、こんな、ことに・・・?
ジワリと涙が浮かびます。
いやいや、と首を振っても、男は開放してくれず僕に延々とキスし続けました。


「ひゅー、ちゅーしてんのー」
「…っや…やーー」
「お前が悪いんだぜ?学校の超有名人のあいつと付き合うから。変な恨み買っちまったんだからな」
「有名人…」
「ほら、足広げろって」

いやだ、と抵抗する僕。でも彼らはそれを許してくれなくて…。
彼らは、僕の下肢、アナルとペニスを弄り始めました。

それからは…そう、悪夢の時間が始まったのです。




「やっ…あ…んん」
「おらおら、ここだろ、っ…へへ…こんなしているのに感じてやがる…」
「…っや…」
「や、じゃないだろ、気持ちいいだろ?ここを、こんなにされて…」
「…!や…だ…−や…あ…−」

引き裂かれる身体。流れる血液。
僕は、あの日襲ってきた男たちに無理やり性行為を強要されました。強姦、です。
大好きな彼には、まだ身体を許していなかったのに。

僕は愛する人に抱かれる前に、その身体を穢されてしまったのです。

何もない僕が、唯一、彼に差し出せた身体。それすらも、汚された、僕。
もう、彼の隣にはいられない。だって、こんな身体、汚れてしまった。

恋人じゃない、他の男に抱かれてしまった僕。
彼に…彼になんて言えばいい…。
なにも、言えない。無理やり抱かれた…なんて。

女の子じゃないんだからって思われるかもしれません。
だけど、何もない僕には、彼にあげられる唯一のものだったんです。

こんな玩具のように抱かれたからだ、彼には抱いて欲しくない。
抱いてなどくれない。
ただただ、涙しか出ませんでした。


―どうせ、女じゃないんだから別に抱かれたっていいじゃないか。
そう思い込みましたが、どうしても気持ちが晴れません。
女じゃないけど…でも怖かったのです。あんな風に身体を好き勝手されて。

暴力を振るわれて。
大人数の中、一人で好き勝手されて。自分の中に見知らぬ男の精を受けて。
本当に本当に怖かったのです。


家に帰った僕は、布団にもぐりこみ、ただこの現状が夢であればいいのに…と願うしかできませんでした。

全ては、ここから狂い始めました。




「先輩…これ、どういうことですか…?」

襲われた二日後、恐ろしいほど怖い顔をした彼に手を引かれ、空き部屋に連れていかれました。
本当は、無理やり引き裂かれた身体が辛くて、学校にも行くのがきつい状態だったのですが、2日前の事で僕を襲った男たちが朔夜君に接触してしまうのが怖かったのです。

僕を無理やり抱いた彼らが、このまま大人しくしているとは思えませんでした。
だって、言っていたのです。

『いい身体だった。また抱いてやるからな』と。

あんなこと、朔夜君にはばれたくありません。
だから、出来るならかくしておきたかったのに。なんとしても隠しておきたかったのに。


「これ、先輩ですよね…」
「…っ!」

彼が手にしていたのは…携帯。それも、僕が痴態を繰り広げた…強姦されたものでした。いつの間に取っていたのでしょう。
いつの間に、彼に。
いつ彼らは接触したというのでしょうか。

強姦されたことはばれたくはないけれど、いつか、話さなくてはいけないと思いました。
でも、こんな…こんな形で知られるなんて思っていませんでした。こんな写真という最悪な形で…。

何故、知られてしまった…?

ばくばくと、心臓が嫌な音をたてます。
きっと、今僕は顔面蒼白でしょう。

嫌な汗が手の平からぶわっと湧き出てきます。僕は震える手をぎゅ、と握りながら、口を開きました。


「それ…は…」
「なにが…なにが、あったんですか。先輩は、先輩に…」
「ぼく…は…」
「これ、俺の友達が回してきたんです。先輩が誘ってきたから、って。お前は騙されているって。先輩は、本当は淫乱で、誰にでも抱かれるようなやつだって」

朔夜君の、友達…が…。
友達、が…僕が誘ったと、嘘をついたの?
僕は誘ってなんか、ないのに。
襲われたのに。


「そんな…」
「先輩は、あいつを誘ったんですか…?」

窺うような、縋る様な朔夜君の視線。
違うといってくれ、そういっているようにも見えました。


「先輩は、あいつがいうように誰でも誘う、淫乱なんですか…」
「僕は…」

違う、違う、違う。
僕は…

「僕は…淫乱なんかじゃ…」

淫乱なんかじゃない。淫乱なんかじゃ…。

淫乱じゃない。

本当に?

もう一人の僕が僕に聞く。

本当に、僕は淫乱じゃない?

写真の中の僕は、無理やり貫かれているにも関わらず、涙を流しながらとても妖艶に誘う娼婦の顔をしていました。
まるで、僕が好きの込んでいるかのような、そんな顔だったのです。


無理やり抱かれて、無理やり引き裂いて、でも…感じてしまった。
初めてなのに、あんなに達してしまった。勃起だってした。

僕は、本当に淫乱じゃないんでしょうか?本当は淫乱じゃないんでしょうか。
あんなにあえいでしまった僕は、好きでもない男を受け入れてしまった僕は、本当に淫乱じゃない…?

本当に…?
僕は…、












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百万回の愛してるを君に