038 点と点とちぎれた線




 以前、ファイル島でも同じような光景を見ていた。今まで海上にいた子供たちにとって、日照りは続きは久し振りなものであるから、余計に体力が奪われるのである。


「…ほ、本当に大陸に来たんだな…」
「ったく、何分かりきったこと言ってんだよ」


 丈が立ち止まり、汗を手の甲で吹きながら当たり前のことを言うものだから、太一が面倒だと言わんばかりに眉を寄せた。先ほどから、同じ台詞をもう何度聞いたことだろう。


「だってこんなに歩いているのに、全然代わり映えのしない景色ばかりじゃないか…」


 そうして丈がふて腐れたように呟くのも、もう何度目か分からない。その後ろ姿を見ていたヤマトは大人げないと小さなため息をついた。(弟だからといって特別扱いしているつもりは本人には毛頭ないが)自分たちよりも辛いはずのタケルは、文句も言わずに黙々と歩いているのだ。少しくらい黙って歩けないのか、と心の中で悪態をついてから、転けそうになったタケルを急いで支えた。


「あーあ…陸に上がったらお風呂に入れると思ったのにぃ…」
「村に着いたら入れるわよ」
「それっていつ着くのよ?何時何分何秒!?」
「そ、それは…」


 気迫のあるミミに押され、しどろもどろになったパルモンは助けを求めるように他の子供たちへと視線を送るも、誰もパルモンの救援を感じ取ってはいなかった。
 栞はそっと顔を上げ、爛々に光る太陽を眩しそうに見た。先ほどから、"コロモン"の気配がする。鼻の奥にこびり付いた懐かしいもの。それははじめてアグモンに、いやコロモンに会ったときから存在するものだった。


「コロモンの気配、スるネ」
「本当か、イヴモン!?」
「僕よリ、アグモンの方が感じ取っテるンじゃナいカナ?」


 子供たちの視線が一斉にアグモンへと注がれる。ひとつ間をおいてから、アグモンはうんと頷いた。


「あっちから、コロモンの匂いがするんだ」
「この近くにコロモンの村があるっていうことか?」


 考え込んでから、太一は単眼鏡を懐から取りだした。この冒険に置いて、この単眼鏡はもはやなくてはならない実用品となっていた。


「ん…?森、か?」
「え、森?」
「それって、コロモンの村がある森っていうこと…?」
「ああ、多分な!」


 にかっと元気よく笑ってから、太一はアグモンの背中を叩くと、二人は一緒になって森のある方向へと駆けだした。  


「あ、ま、待って八神くん!」


 子供たちはいそいでそんな太一とアグモンの背中を追いかけた。
 森を歩きはじめて、時間が少し経過した頃、アグモンが小さな声をあげた。


「どうした、アグモン」
「もうすぐそこにあるよ!」


 だっとアグモンが駆けだしたので、再び子供たちはその後を追った。しかし栞だけは、その場で小さく首を傾げる。


「ね、え、イヴモン…」
「うン?」
「…あそこ、本当にコロモンの村、だよね」
「…らシいケド、…ドウかシたノ?」


 更に首を傾げる栞に、イヴモンは困ったように笑顔を浮かべた。それから栞は少しだけ考え込んで、何でもないと笑顔を浮かべた。


「栞!来てみて!コロモンの村よ!」


 崖下に見える小さな村に、子供たちは大きな歓声をあげた。もしかしたら紋章がどこにあるのか手がかりがあるかもしれないし、何よりこの疲れた身体を早く休めたかったからだ。


「おっふろー!」
「ま、待ってよ、ミミ!」


 一番に駆けだしたミミは、俊敏な足で一気に村へと走っていった。その後を追うパルモンが少し大変そうだった。

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