「ここはパグモンの村だったんだな…」
「おっかしいなあ…。確かにコロモンのにおいがしたと思ったんだけど…」
「どうでもいいじゃない、そんなこと!それより見て!まるで竜宮城にきた乙姫様だわ!」
「それを言うなら浦島太郎…」
「そんなこともどうでもいいわよ!ねえ、早く食べましょう?」


 お風呂ですっかり機嫌が直ったミミを筆頭に、お腹を空かせた子供たちは次々と食べ物に手を伸ばした。ただ、空だけは二度目ということもあり、訝しげに持ち上げた果物を見つめている。


「…これ、ニセモノじゃない?」
「そう何度も同じ手にひっかかってたまるかよ!…ほら、空も、栞もはやく食べろって」
「でも、」
「…大丈夫ダヨ、栞。こレは本物だかラ」


 手に取ろうともしない栞を見て、イヴモンは優しく微笑んだ。それは本当に心からの笑みだった。


「…うん、」


 イヴモンの言うことは、信用できる。彼女はもはやイヴモンには絶対的な信頼を置いていた。手に取ったリンゴによく似た果物に、小さくかぶりつく。程よい酸味が口の中にひろがり、おいしいと素直に感じることができた。それを見た空も、果物をかじって、満足そうな顔をした。


「でも変やなァ…。パグモンは意地の悪い性格やっちゅう噂やったのに…」
「ただの噂だよ、きっと…」
「そうそう噂、噂!」
「本当はいいデジモンなのよ!」
「そうそう、いいデジモン!」


 おいしい食べ物は、警戒心を薄くさせる。イヴモンは栞が小さく割ってくれたリンゴを食べながら、ただじっとパグモンたちを見つめていた。


(おそらく、ここは…)

「ポヨ、」
「あっ!」


 考えを打ち払ったのは、ポヨモンとタケルの声だった。カァッと眩い光が一瞬にして迸った。それはもう何度も見た進化の光だった。


「トコモンッ!」
「進化、したんだね」
「よかったな、タケル!」
「次に進化したらパタモンだ」


 その時、イヴモン以外は誰も気づいていなかったが、それまで踊っていたパグモンの動きが一瞬だけ止まり、赤く鋭い瞳はトコモンへとむけられていた。


「タケル、」
「トコモンっ」
「一緒に頑張ろうね!」
「うんっっ!」


 少しだけ目尻に涙を浮かべながら、タケルは大きく頷いた。


「はーい、二人の友情に拍手ゥ!」

「おめでとう!」
「おめでとう!!」


 そう言うパグモンの瞳は、やはりギラギラと輝いていた。


(……、何か、あるな)


 ただ一匹のみ、その疑心を失わずに夜を迎えた。


17/07/26 訂正
10/11/23 訂正

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