045 それでも笑えというのか




 赤い瞳の自分が襲いかかってくる。
 瞳を閉じては、そんなことばかり浮かんでは消える。

 あれが、守人になるということなのだろうか。

 『眠ることを必要としなくなった体』
 『赤く変貌した瞳』

 『そしていつも以上にはっきりとした意識』

 あれが守人なのだろうか。
 想像していたのとは、ずいぶん違う気がする。自分が思っていた守人は、優しかった。話に聞いていたのが優しくて暖かい守人だったからだ。
 しかし、あの時の自分は攻撃的な性格をしていたような気がする。

 本当に、自分は守人なのだろうか。


★ ★ ★




 子供たち一人一人が、紋章探しについて、積極的ではなくなってしまった。あんな進化は、させたくはない。おそろしいとさえ思う。もし自分が紋章を見つけたとしても、正しく進化させてあげることができるのだろうか。その時自分は、拒むことなく、また栞の体は自分たちのパートナーを蝕まないだろうか。炎天下の中、そんな心配ばかりが、胸を支配していた。


「栞…平気?」
「……」


 栞はイヴモンの質問に、ただコクリとだけ頷いた。見るからに元気がないのは、おそらく気のせいではない。先ほどの一件は、栞の心に多く棲みついてしまったらしい。イヴモンはそっか、と優しく微笑み、栞のまわりを旋回した。


「…ごめんな、コロモン」
「こんなところでいくら後悔したってどうしようもないわ…。コロモンのためにも、太一さんや栞さんが元気出さないと!」


 ミミにしては珍しく人を気遣った発言だった。その顔は汗だらけで、疲れもにじみ出ている。


「それにしても…暑いわね…。みんな、大丈夫…?」
「コロモンの体力が心配だ…」

「んん〜?…あれはなんだ?」


 先頭を歩いていた丈が、何かを見つけたらしく、目を凝らして前方を見つめた。そして疑った。なんと彼らの前には、巨大なサボテンが立っているではないか!


「ようし、みんな!あの巨大なサボテンの日陰に入るんだ!」


 栞を除いた子供たちは、一斉に走り出した。栞だけが、のろのろとその後を追った。まさか暑ささえも感じなくなってしまったのではないかとイヴモンは心配したが、そうではないらしかったのでひとまず安心した。急に人間でなくなってしまっては、栞の命にも危険が及ぶ。 そうしないためにも、自分が傍にいるのだから。

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