「臆病すぎんだよ、丈は。…で、入口はどこにあるんだ?」
「えー…と、あ、ここです」
「そっか」


 画面とフェンスを交互に見つめ、確信した光子郎はとある一点を指差した―――すると、なんという事か、太一はただ一言を残し、す、と姿を消した。何のためらいもなしに、フェンスの中へと飛び込んで行ったのだ。これには他の子供たちは目を点にした。


「何やってんだよ!みんな早く来いよー」


 光子郎も空も丈も、何とも言えない表情だった。否、空だけがもう耐えきれないといった怒りの表情を露わにしていた。しかしそれに気づく太一ではなくて、彼は先に進んだ。仕方なく、諸々の感情を押さえ込んだ空たちはその後を追った。
 もちろん、今の栞には電圧など関係ないらしく、ちょっと外れた場所を通り抜けたが何ともなかった。(…なんだ)胸がモヤモヤした。太一の態度に、太一の行動に、何かが芽生え始めるのを感じる。それは甘くとろけるような感情ではなく、もっとうす暗くドロドロとした嫌なものだった。(…あれはいったい)ふわり、ふわりと何かが浮かんだ。


「ここが目的地です…」
「…あれは?」


 彼等が辿りついた目的地は、随分と質素で、随分と硬質な雰囲気を漂わせていた。全体が金属片で出来ているのか、少しだけ冷たさを感じる。機械だらけの部屋のようで、太一はいち早く机の上で無造作に動くものを見つけた。それは透明な何かで囲まれていた。


「確かナノモンや!ごっつ頭のええデジモンや!」

(ナノモン…)


 聞き覚えのある名前だが、断片的にも思い出せない。栞は少しずつ思考がぼんやりしていくのを感じた。ぐわん、ぐわん、と頭の中で何かが警告音を発している。直観的に怖いものがやってくると答えた。


「ひょっとして、あのデジモンがメールを送って来たの?」
「その通りだ…選ばれし子供たち…」


 パソコンのディスプレイ上に机の上にいるものが映し出された。それはナノモン本人で、光子郎は少しだけ首を傾げ、―――そうかと思い当たる節を見つけた。


「赤外線ポートに直接データを送り込んでいるんだ…!」


 ナノモンはパソコンを媒体にして、メッセージを送りだした。そこから伝えられたのは彼の悲惨な過去だった。エテモンとの戦いに敗れ、身体は破壊されたまま封印されてしまい、思考能力を奪われた状態のままエテモンのためになるホストの役割を与えられた。けれど記憶を取り戻して、自分の身体の修復を始め、逆に干渉するようになった。けれど、封印は解除できない。それが出来るのは、外部から加えられた力でのみだった。
 一通り話を聞いた空は、一歩だけ前に出た。


「私の紋章はどこにあるのか本当に知ってるんでしょうね?」
「もちろん…。私はエテモンすら知らない多くの事を知っている」
「信用できるんだろうな?」
「私と君たちはエテモンの敵ということで共通している。信じてほしい」


 その言葉に、太一は思考をめぐらせた。確かに、サーバ大陸に上陸して以来、彼のデジモンと接触しなかった時はないし、エテモンは栞の力―――もとい守人の稀なる力を狙っている。ナノモンは頭の良いデジモンだとテントモンは言っていた。もしかしたら己らの助けになってくれるのかもしれない。エテモンがお互いの敵であるという時点で、彼らの利害はぴったりと一致していた。

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