「…空」
彼女の声は、震えと悲しみに満ちていた。どうしたの、とミミが問うよりも先に、ピラミッドから脱出してきたヤマトたちがその場に現れた。この場にいてはエテモンが追いかけてくるという危険があったので、彼等はすぐに洞窟付近まで移動した。やはり――独りだけ、欠けていた。
「そうか…空とピヨモンはさらわれたのか…」
丈と光子郎に支えられるようにしていた太一は、その言葉がスイッチとなり、やがて足から崩れ落ちて地面を涙で濡らした。
「チクショウ…チクショウ…」
その姿を見て、ふつり、と何かが湧きあがってきた。ドロドロとした感情だけが栞の胸の内を支配した。
―――…少女はすべてに絶望し、…すべてを憎んだ。
やがて、栞の瞳が、朱色に染まった。血を彷彿させるように、気味の悪い色が、彼女の瞳に浮かび上がる。イヴモンは、目を最大限にまで大きく開いて、栞を止めようとその小さな身体を駆使したが―――それよりも早く、彼女は太一の前に立って、彼を見下ろした。
「なんで」
問われても太一は拳を握りしめたまま、その場でただ涙を流していた。
「栞くん…?」
「た、太一さん1人のせいじゃないんです、僕達も――!」
「あなたがあんな軽はずみな行動しなければ空は!!なんであんなことしたの、なんで空がここにいないの、なんで空ではなくてはならない、なんで…どうして、答えられるでしょ、ねえ、答えてよ。ねえ、…ねえ!!」
「栞、栞ッ!落ち着いて…、ダメだよ!出しちゃだめだ!!」
イヴモンはその小さな体で一生懸命に栞にすがりついた。哀しげにゆがめられた空色の瞳、高い少年のような声は、悲鳴にも似ていた。その声は、栞の記憶の奥底にしまい込まれていた声によく似ていて、彼女の視界がぐらりと揺らいだ。
「空は死んでなんかいない!空は生きてる!!大丈夫、きっと助けられるから!!君の『友達』は、絶対に助けられる!!あの時と同じじゃないよ!!君は守れる!!君になら守れるよ、それに僕もいる、僕がいるから…!!だから、出しちゃだめだよ、!!」
泣きたくなるくらい、強く強く。
やがて栞の瞳が薄い色に戻り、彼女は何かが堕ちたかのように、ゆっくりとその場に倒れ込んだ。
その閉じられた瞳から、夕焼けに輝いた涙が、一粒、零れ落ちて。
17/07/26 訂正
10/11/28
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