栞が衝撃を恐れ目を瞑った時、右手から温もりが消え、そっと目を開けた。そこは夢の中で見ていた部屋とは少し違って、精密機械で溢れ返った部屋だった。


(…ここ、が?…八神くん?)


 太一の身体が強張った。栞は思わず息を飲んで前を見た。そこには、ナノモンと並んでいる空がいた。しかしその空の瞳からは生気が感じられなかった。


「空!!」


 助けたいと願った空が目の前にいる、太一はその空に向かって駆けだした。その時、栞は目の端に台に縛られて寝かされているもう一人の『空』の姿が映った。


「空!?」


 そちらが―――本物だと無意識のうちに感じ取った。


「八神くん!そっちじゃない!!」
「え!?」
「そっちは偽物よ!太一!!」


 一日ばかり聞いていなかったピヨモンの声に、太一はハッと後ろを振り返った。『偽物』という言葉に太一は少しだけ瞳を鋭くさせ、それからナノモンを睨みつけた。


「空っ!」


 太一とナノモンが対峙している間に、栞は空のもとへと駆け寄った。


「栞…!!」
「待ってて、今…!!」


 しかし硬く絞めつけられた手錠は、栞の微弱な力では外れることはなかった。ちらりと後ろを見れば、ナノモンは「たった今コピーは完成した…。聖なるデバイスと紋章を身につけさせれば、こちらが本物になる」と言っていた。ナノモンの横に立つのはどうやら偽物らしく、彼は手に持つ空の紋章とデジヴァイスを掲げた。


「…ちがう…!」


 『本物』とか『コピー』とか、そのようなもので、選ばれし子供たち測り知れるはずもない。無意識に呟いて、悲痛に顔をゆがめた。中々外れてくれない手錠と足枷に焦らされる心は焦燥感にかられていた。栞はどうにかナノモンに考えを変えてもらおうと振りかえり―――その時だった。

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